雨粒の観覧車

閉園後の遊園地で、観覧車が地上三十メートルの位置に止まった。客はもういないが、明朝には修学旅行の団体が来る。水城周が機械室へ着くと、運転員はインバーターの交換箱を開けていた。

「表示が過電流です。これしかないでしょう」

周は交換を待たせ、停止した瞬間の監視映像を見た。車輪は一度だけ止まり、数センチ戻ってから完全に固まっている。モーターが過電流を出したのは原因ではなく、何かに止められた結果かもしれない。

雨具を着て外周を歩くと、乗降位置を知らせるリミットスイッチの腕が、雨粒のたびに小さく跳ねていた。防水カバーの裂け目から水が入り、接点が入ったり切れたりしている。制御は「乗降位置に着いた」と誤認し、そのたびに制動靴を押し付けていた。

運転員はスイッチを外して回せばいいと言った。周は先に観覧車の上下へ立入禁止の鎖を張り、制動靴を手動で固定した。強い風が吹く夜に、停止信号だけ外せば、車輪が重い側へ動き出す。機械室にいる人間には、その最初の一回転が見えない。

周は濡れたスイッチを予備品へ替え、配線の端まで水が回っていないか一本ずつ確かめた。裂けたカバーだけを替えなかったのは、接点に残った水分が翌朝また誤作動するからだ。

地上では警備員が、止まった位置の全ゴンドラ番号を記録していた。周は一台だけ扉の閉まりが遅いことにも気づいたが、今回の停止原因と混ぜず、別件の点検札を付けた。見つけた異常を全部同時に触れば、どの作業で何が変わったのか分からなくなる。修理の順番も、安全装置の一部だった。

無人の試運転では、一周目を最低速度、二周目を通常速度にした。乗降位置で停止させるたび、周は制動靴の温度を触らずに測った。過熱はない。

午前五時、東の空が薄くなった。観覧車の窓に残った雨粒が、ゆっくり一周して戻ってきた。運転員が始業点検表を取りに走る。

周の無線には、園内鉄道の車庫から呼び出しが入った。今度は片方の扉だけ閉まらないという。彼は観覧車を見上げる暇もなく、雨の園路を次の機械へ向かった。