雪うさぎの白玉

 朝野文乃は、祖母の兎を引き取ってから、正月が少し苦手になった。

 白い兎のふぶきは、祖母の鈴枝が名づけた。餅のように丸く、冬になると炬燵の脇で鼻を動かす。

 祖母の小豆汁粉には、従兄たちには大きな焼き餅が入り、文乃の椀だけ小さな白玉だった。子どもの頃の文乃は、それを「私は少なくていい子」と扱われた証拠だと思っていた。祖母が亡くなる前にも、そのことを笑い話にできず、胸の底へ残した。

 今年、文乃は初めて自分で小豆を煮た。

 灰汁を取り、砂糖を三回に分ける。味は近いのに、何かが足りない。祖母の裁縫箱から出てきた献立帳をめくると、頁の隅に兎の絵が描いてあった。

〈文乃は焼き餅で口を切る。白玉を三つ。二つは丸、ひとつは耳にする。塩は最後〉

 文乃はしばらく、その字を指でなぞった。

 記憶の中では白玉はただ小さかった。けれどよく思い返せば、祖母は細長い二本を椀の縁へ添え、「雪うさぎ」と言っていた。従兄たちが羨ましくて、形を見ないふりをしていたのだ。

 白玉粉をこね、丸い頭と短い耳を作る。ふぶきが台所まで来て、落ちた粉を嗅いだ。

「あなたは食べられないよ」

 文乃が耳をつけると、白玉は少し不格好な兎になった。

 汁粉へ落とし、最後に塩をひとつまみ。甘さの輪郭が急に整い、湯気の奥から祖母の台所が現れた。

 最初の一口は熱く、小豆の皮が舌に残った。白玉は焼き餅よりやわらかく、噛むと静かに伸びる。

「少なかったんじゃないんだね」

 文乃が言うと、ふぶきは前足で床を一度叩いた。

 祖母の写真の前へ、雪うさぎの椀を置いた。文乃は自分の分には白玉を四つ入れた。三つは祖母の通り、もう一つは今の自分の分。

 窓の外では細かな雪が降り始めていた。部屋には煮小豆と焙じ茶の香りが漂い、ふぶきの耳の先まで、赤い湯気で温まって見えた。

 献立帳の余白には、従兄たちの好みも一人ずつ書かれていた。祖母は同じ鍋から、違う椀を作っていたのだ。文乃は自分だけが小さくされた記憶を、ようやく「自分だけに合わせてもらった記憶」へ置き直した。