雪兎の抜け毛で冬を縫う
「抜け毛を集めて毛玉にするだけなら、箒のほうが役に立つ」
北境軍の技能検査で、クレハンは無能とされた。
【技能:《毛玉寄せ》――視界内に落ちた魔物の抜け毛を、一つの毛玉へ集める】
毛を増やす力ではなく、刈り取ることもできない。彼は砦を追われ、雪兎の群れが暮らす高原で小屋を建てた。
雪兎は馬ほど大きいが臆病で、春になると雲のような毛を脱ぐ。クレハンは朝に毛を集め、糸へ紡いで敷物にした。余ったものは巣へ戻し、仔兎の寝床へ敷いた。雪兎は礼のつもりか、朝になると赤い木の実を小屋の前へ並べた。村の子供は彼を「毛玉番」と呼び、冬前には一緒に糸を撚った。
その年、秋を飛ばして冬が来た。
北風は砦の屋根を剥がし、避難民三百人が高原へ逃げてきた。橋は雪崩で落ち、薪を積んだ荷車も谷の向こうだ。北境公バルゼムの火術は強かったが、燃やすものがなければ一晩しかもたない。
「毛布を出せ」
「二十枚しかありません」
凍える人々の前で、雪兎の群れが小屋を囲んだ。夏毛から冬毛へ生え替わる時期を、急な寒波が一夜で進めていた。白い抜け毛が高原中を飛び、雪と見分けがつかない。
クレハンは丘へ登り、両手を広げた。
《毛玉寄せ》。
風に散っていた毛が逆向きに舞った。谷の斜面、巣穴の入口、木の枝に絡んだ毛まで集まり、広場へ巨大な白い塊を作る。家より大きい毛玉だった。
村の紡ぎ手が糸を引き、兵が織り、子供まで縄を撚った。毛布だけではない。砦の割れた壁へ詰め、屋根へ敷き、雪兎の油を染み込ませた布で覆う。白い砦は朝まで熱を逃がさなかった。
夜明け、三百人の避難民は全員生きていた。雪兎たちも、毛玉を切った残りへ潜り込み、鼻だけ出して眠っている。
検査官が「兎が多かったからだ」と呟く。
バルゼムは自分の毛皮外套を脱ぎ、その男へ投げた。
「多いものを、必要な場所へ集める。それを軍では補給と呼ぶ」
北境公は砦の倉庫鍵をクレハンへ渡した。
「この冬から、北の暖かさは毛玉番が管理する」