雪夜の孤児院に小さな炉
吹雪の夜、孤児院の薪が尽きた。
屋根裏まで探して見つかったのは湿った枝が三本。院長になったばかりのエメは、自分の外套を裂いて窓の隙間へ詰めたが、寝室の温度は下がり続けた。
「明日の朝まで、起きて歌っていようか」
子どもたちは明るく言った。眠れば体が冷えると知っているからだ。最年長の少年は、小さい子へ自分の毛布を渡していた。
エメは冒険者を引退した日に届いた《生活職・初回十連》を思い出した。戦えない道具ばかり出ると笑われ、開けずにいたものだ。
今ほしいのは剣ではない。
彼女は一度だけ回した。
木椀、縫い針、石鹸、箒などが九つ。最後に、両手へ載るほどの黒い炉が現れた。
《卓上炉/燃料一回分付属》
「小さすぎるよ」
少年が唇を噛む。
「小さい火ほど、近くで囲めるでしょう」
エメは付属の炭一粒へ火をつけた。
赤い点が灯った瞬間、冷え切った床板の中を、春の陽だまりのような温もりが走った。窓の霜が端からほどけ、濡れた靴が乾き、二階の寝室まで暖気が満ちる。炉に載せた鍋では、凍りかけていた牛乳がふつふつ鳴り始めた。
子どもたちは歓声を上げなかった。まず小さい子を炉のそばへ座らせ、次に毛布を干し、誰かが棚から硬いパンを持ってきた。温めた牛乳へ浸せば、今夜のごちそうになる。
外では吹雪が唸っている。それでも院内では、眠っていい夜が戻ってきた。
エメは王都の冒険者ギルドから届いていた復帰命令書を炉へ近づけた。紙の端が焦げる。
「院長、燃やしていいの?」
「炭は一回分だけだから、火種を足さないとね」
子どもたちの笑い声とともに命令書が燃え上がった直後、炉の表示が更新された。
温まった牛乳の表面に薄い膜が張り、子どもたちは順番に木匙ですくった。いつも食事を最後にしていたエメの前へも、最年少の少女が半分のパンを置く。「院長もここの子でしょう」と言われ、エメは初めて炉の輪の内側へ座った。守る側だけが寒さを我慢する決まりなど、どこにもなかった。
《神話級〈春待ちの炉〉/燃料:守ると決めた意志》