霊障は経理部の担当です
広告会社〈北辰企画〉では、午後六時になると、誰も触れていない複合機から白紙が一枚出た。
総務部の戸次望深は、部署代表を会議室へ集めた。
営業部長が言う。
「うちの企画書を没にした社員の霊だ」
経理課長は首を振る。
「営業が紙を使いすぎるから、木の霊が怒っている」
開発主任は総務を見る。
「機械の保守は総務です。つまり総務霊」
望深は机を叩く。
「霊まで担当部署を決めないでください」
白紙には、毎回うっすら黒い筋が付いていた。
営業部長が声を潜める。
「ダイイングメッセージだ」
「ただのローラー汚れでは」
「筋が一本。犯人は一人」
経理課長が言う。
「一円の誤差を出した者かも」
全員が経理を見る。
「なぜ私たちを?」
「霊が帳尻を合わせに来た」
話し合いは、過去の失敗の告白大会になった。
「営業は先月、誤って五百部刷った」
「開発は深夜に私用印刷を」
「総務はトナー交換日を忘れた」
経理課長は黙っている。
望深が尋ねる。
「経理は?」
「霊に守秘義務があります」
「生者にも説明責任があります」
さらに人事部が入ってきた。
「退職者の霊なら、人事記録を確認します」
営業部長が言う。
「解雇された者を優先して」
「会社への恨みを数値化できません」
経理課長は小声で言った。
「残業代の未払いがあれば、私の部署へ来るかも」
望深が振り返る。
「何か心当たりが?」
「一般論です」
「急に一番怖い話をしないでください」
午後六時。全員が複合機を囲んだ。
機械が唸り、白紙を一枚吐き出す。
営業部長が経理課長を指す。
「今、目をそらした!」
「あなたがボタンへ近かった」
開発主任は望深へ言う。
「総務が遠隔操作を」
「そんな技術があれば会議を止めています」
複合機の液晶に、小さく〈予約印刷 18:00 1枚〉と表示されていた。
望深が履歴を開く。
登録者は、三年前に退職した元社長。毎日、退社時刻に試し刷りを一枚出す設定が残っていた。
営業部長がつぶやく。
「元社長の霊が」
開発主任が訂正する。
「元社長のアカウントです」
経理課長は胸をなで下ろす。
「では経理は無関係」
望深は履歴の次の行を指した。
〈用紙代自動計上 経理部〉
霊障ではなかったが、請求だけは経理へ回った。