青硝子の小瓶

夜明け前の砂は、死人の骨より冷たかった。

ヤジード・ハルーンは交換幕の中央で、青硝子の小瓶を灯火へ透かした。中には無色の液が半分。敵の医官は、それを王妹サミラの解毒薬だと言った。

サミラは向こう側の椅子に縛られ、唇が紫に変わっている。こちらが返すのは、敵将クバールの長男。健康で、縄を切れば自分の足で歩ける。

「交換後、姫に飲ませろ」と医官が言った。「毒は日が昇るまでに心臓へ届く」

ヤジードは瓶を振らなかった。液ではなく、栓を見ていた。

青硝子の口には羊皮の栓が押し込まれ、その中央だけが濡れている。液面は栓に届いていない。運ぶ途中に逆さになったとしても、外側だけが湿ることはない。

毒は薬の中ではない。栓に塗られている。

栓を抜く指へ付着し、その指でサミラの口を開けば、最後の毒が入る。姫が死ぬのは交換後、味方の手の中だ。

「飲ませる前に、おまえが味見しろ」

ヤジードが言うと、医官は眉一つ動かさなかった。

「解毒薬を健康な者が飲めば害になる」

「なら液だけを匙へ移せ」

「夜気に触れれば効き目を失う」

嘘は増えるほど、形が整いすぎる。ヤジードは小瓶を卓へ置き、敵将の長男を引き寄せた。短刀の峰を、その唇へ当てる。

「栓を抜け。おまえの指で、この男に一滴飲ませろ」

クバールが立ち上がった。護衛の曲刀が鳴る。こちらの槍も下がる。幕の外では双方の騎兵が、一本の綱を挟んで待っていた。

「息子を毒見役にする気か」

「姫に渡した薬だ。恐れる理由はない」

クバールは医官を見た。医官は目を伏せた。それだけで足りた。

ヤジードは瓶を布で包み、羊皮栓の首を折った。栓へ触れず、底の液だけを銀杯へ注ぐ。次に自分の小指を液へ浸し、舌へ乗せた。苦味はない。

「中身は水だ」

医官の袖を兵が裂いた。内側から同じ羊皮栓が三つ転がり、砂へ落ちる。

クバールは息子を取り戻したい。だが企てを認めれば、姫を生かして返す義務が生じる。交換幕の静けさは、剣戟より重かった。

「本当の薬を持ってこい」とクバールが命じた。

医官は連れ去られ、別の薬師が赤い陶瓶を運んできた。今度は封泥が乾き、底に薬草の澱が沈んでいる。

サミラへ飲ませると、紫の唇がわずかに震えた。

二人の縄が同時に切られる。王妹がこちらへ三歩進み、ヤジードの腕を掴んだ。

幕外の空が白み始める。

ヤジードは青硝子の瓶を踏み砕いた。

「オアシス門を開けろ」

砂壁の門扉が、朝の光へ割れていった。