面会証の裏側

午後十一時、救急外来の警備席へ、作業服の男が駆け込んだ。

「娘が集中治療室にいる。通してくれ」

警備員の枝折晃が面会証を求めると、男は受付でもらった紙を握りつぶした。

「そんなものを書いてる時間があるか!」

男はエレベーターへ向かう。枝折は腕をつかまず、非常口側へ半歩ずれた。人は正面を塞がれると押し返すが、進めるように見える斜めの位置なら足が止まりやすい。

「娘さんのお名前と生年月日を」

「柚月、十二歳だ」

その年齢を聞いて、枝折は紙の裏側を見せてもらった。印字された病棟は本館三階。だがこの病院の成人集中治療室は本館、十二歳の救急処置室は西棟だった。さらに面会証の色は青ではなく緑で、受付が別の同姓患者の案内を渡している。

枝折は無線で応援要請を出した。ただし「暴れている男」ではなく、「患者照合、看護師一名」と伝えた。大勢の警備員を呼べば、男は自分が排除されると思う。

到着した看護師に、生年月日から患者を確認してもらう。娘は西棟で処置中で、父親を探していた。

「こちらです」

枝折は最短の廊下を指ささなかった。夜間はその途中の非常口が業者搬出で開く予定だった。興奮した家族と台車がぶつかる危険を避け、遠回りでも人の少ない連絡通路を選んだ。

男は数歩進んでから戻り、しわになった紙を枝折へ差し出した。

「さっきは、悪かった」

枝折は紙を受け取らず、面会証を正しい色へ交換した。

「お嬢さんの前では、ゆっくり息をしてください」

枝折は警備日誌に、男の怒声より先に案内票の色を書いた。騒いだ人として残せば、次に来た時も最初から警戒される。間違えた手順を残せば、次の家族を怒らせずに済む。看護師もその記録に署名した。

二十分後、受付は同姓患者の案内手順を変更し、生年月日を先に読むことになった。

枝折が警備席へ戻ると、救急車のサイレンが近づいていた。自動扉の前には、次の家族がすでに立っている。

彼は椅子に座らず、新しい面会証を一枚取り出した。