面接前の炭酸水

最終面接を受ける者は、受付横の自動販売機に職歴上の後悔を一つ入れる。硬貨の代わりに履歴書の控えを細く折り、希望商品のボタンを押す。採用されるために作った後悔は黒い水になって返り、本当にやり直したいだけの後悔は商品が出ない。後悔しながら、それでも同じ選択をする者にだけ透明な炭酸水が出る。

小比賀はその説明を読んで、ずいぶん面接向きでない規則だと思った。ロビーでは他の候補者が、黒いペットボトルを植木鉢の陰へ隠している。受付は見て見ぬふりをしていた。

前職で小比賀は、月次売上の集計を担当していた。部長が一行だけ数字を上げた。根拠はなかった。小比賀は元データを保存したが、表を直さなかった。翌月、その数字を前提に人員が増え、半年後に部署ごと整理された。彼は告発者でも被害者でもなく、退職理由には「事業縮小」とだけ書いた。

履歴書の控えに〈もっと早く転職しなかったこと〉と書いて入れる。商品口から黒い水が落ちた。受付嬢が番号札をめくり、「書き直しは二回までです」と言った。

二枚目に〈部長に反対できなかったこと〉。今度は何も出ない。機械は紙だけを返し、液晶に〈同じ選択をしますか〉と表示した。

面接室から自分の番号が呼ばれた。小比賀は最後の控えを折った。

〈数字を直さなかったこと。証拠を残すため、今も同じ選択をする〉

透明な炭酸水が一本落ちた。

面接官は三人とも、机にその瓶を置くよう言った。中央の男が「当社でも同じことを?」と尋ねた。小比賀は「元データを残します」と答えた。「上司に従うかではなく?」

「消されない形で残します」

面接は七分で終わった。結果は一週間以内だという。エレベーターで、小比賀は瓶を光に透かした。泡は一つも上がっていない。底に赤い修正テープの歯車が沈み、彼が瓶を傾けるたび、消せない数字のように同じ場所へ戻った。

翌週届いたメールを、小比賀は瓶を机に置いてから開いた。採否の欄は空白で、面接時の回答だけが添付されていた。瓶の底の歯車が初めて一目盛り回り、赤い帯を細く吐き出した。帯には、誰も入力していない「原本保存」の四文字が白抜きで並んでいた。