魔力税の白線

魔法都市ネイラムでは、生まれつき魔力の少ない者ほど税に苦しんでいた。

 住民は毎月、魔力晶へ五十単位を納める。大魔術師なら指先一つだが、靴修理のルッカには三日分の力だった。税を払った翌日は針を動かせず、店を閉める。閉めれば稼げず、翌月の税が遅れる。

「才能がない者は都市を去れ」

 評議員はそう言った。

 新しい会計官ナディムは、評議員の前で自分の魔力計を置いた。表示はゼロだった。

「では私が最初に去るべきですね。ですが帳簿は、魔力がなくても読めます」

 彼が引いたのは、魔力晶の表面を横切る白線だった。

「一人三百単位までは、生活と仕事に必要な保有量として課税しません。白線を超えて蓄えられた分の十分の一だけ納める。使い切って白線を下回った月は零です」

「強者ばかり払うことになる!」

「率は全員同じです。余裕の十分の一。量ではなく割合を等しくします」

 さらにナディムは、集めた魔力の行き先を一つに限定した。冬に魔獣を防ぐ外壁結界だ。晶の台座には、誰が何単位納め、結界へ何単位送ったかが光の文字で残る。削除はできない。

 評議員の名で抜かれていた百単位も、青白く浮かび上がった。

 その日、評議員は黙って席を失った。

 ルッカの納税は零になった。代わりに店を毎日開けられ、靴の注文が戻った。大魔術師たちは不満を言うかと思われたが、最初に晶へ手を置いたのは炎術師ヴァルグだった。

「俺は今月、千二百余っている。九十だな」

「白線を超えた九百の十分の一です」

「計算まで見えるのは気分がいい」

 彼が納めると、外壁の一角が灯った。次に薬師、鍛冶師、幻術師が並ぶ。命令で集められた列ではない。自分の力がどこを守るか、目で確かめられる列だった。

 ルッカは魔力を納められない代わりに、結界番の靴を無料で直した。

 初雪の夜、魔獣の群れが森から現れた。

 外壁に白い光が走り、一頭も町へ入れない。住民たちは逃げず、晶の前に集まった。

 ナディムが最後の帳尻を合わせると、台座に新しい一文が浮かぶ。

『生活の力は奪わない。余った力で、隣を守る』

 白線の向こうで、町の結界が朝まで静かに輝いていた。