『応募番号四一七』

中途採用面接で、香坂椿は応募者の名取耀が示した企画書に見覚えを感じた。高齢者の買い物代行と商店街ポイントを結ぶ案。完成度は高く、取締役はすでに採用へ傾いている。

「これは前職で実施したものですか」

椿が尋ねると、名取は即答した。

「私が起案し、社内事情で凍結されました。守秘義務に触れないよう数値は変えています」

椿はページをめくった。誤字まで同じだった。「利用者導線」が一か所だけ「利用車導線」になっている。

「応募番号四一七をご存じですか」

名取の指が止まった。

「いいえ」

椿は採用管理システムを開いた。四一七は昨年度の不採用者、安積真琴。彼女が課題選考で提出した企画書と、目の前の資料は二十八ページすべて一致していた。

取締役が眉をひそめる。

「応募資料は採用担当しか見られないはずだ」

「昨年、名取さんは当社へ人材紹介会社の担当者として出入りしていました」

椿はアクセス履歴を表示した。四一七のファイルが開かれたのは不採用決定の翌日。閲覧者は外部アカウント「NATORI_Y」。その後、ダウンロード履歴だけが削除されていた。外部担当者の閲覧は画面表示だけに制限されていたのに、名取はブラウザの印刷機能でPDF化し、私用クラウドへ同期していた。

名取は椅子に座り直した。

「紹介の品質確認です。規約上、閲覧権限はありました」

「閲覧権限はありました。ただし持ち出し権限はありません」

椿はもう一通のメールを出した。昨年、名取が社内担当へ送った「四一七は独創性に欠けるため不採用妥当」という評価。CCには、今日の面接官である椿が入っていた。彼は真琴を落とさせ、その案を自分の経歴として持ち込んだのだ。

名取の笑顔が消えた。

取締役は採用票の「可」を二重線で消した。

「名取さんの選考は終了です。香坂さん、応募番号四一七へ連絡を。昨年の判断を覆し、企画職の面接からやり直します」