『十一分遅れの功労者』

月曜朝礼で、野々村晃は表彰台の前に立っていた。

前週、誤った原料が製造ラインへ投入される直前、バーコードの異常に気づいて停止ボタンを押した。損害を防いだ功績で、主任昇格も同時に発表される予定だった。

工場長が賞状を読み始める前に、品質責任者の鷺沢苑子が手を挙げた。社員百人の視線が集まり、野々村は賞状を受け取る形に両手をそろえたまま止まった。

「確認したいことがあります。異常に気づいた時刻は?」

「十五時二十二分です」

野々村は即答した。

「検品端末に警告が出たので、私が停止しました」

鷺沢はスクリーンに端末ログを出した。警告検知は十五時二十二分、停止信号は十五時二十四分。操作者欄は野々村のIDになっている。朝礼にいる誰もが知っている記録だった。

「では、十五時十三分に非常停止盤を開けた人は?」

「そんな記録はないでしょう」

鷺沢は設備点検表を映した。盤の開閉センサーは十五時十三分。作業者は契約社員の祝部まどか。野々村が、皆の前で鼻を鳴らして笑う。

「端末より十一分も早い。異常が出る前ですよ」

「そう見えますね」

鷺沢だけが知っていた。旧型検品端末の時計は、前日の停電復旧後から十一分遅れていた。交換部品が届くまでの暫定措置で、補正値を記したメールは工場長と鷺沢だけに送られている。

正しい警告時刻は十五時十一分。祝部は二分後に盤を開け、手動停止した。野々村が自分のIDで端末停止を入力したのは、その十一分後だった。

「でも、ログの操作者は私です」

「はい。ラインが止まった後で、自分を功労者にする入力をした証拠です」

さらに共有日報の更新履歴には、祝部が書いた「手動停止」の一行を野々村が削除した時刻が残っていた。

朝礼の列の端で、祝部が唇を噛んでいた。

工場長は読みかけの賞状を裏返し、主任辞令を机へ戻した。

鷺沢は表彰台から野々村を下ろし、祝部の名を呼んだ。