十四桁目の得意先

 辻垣内茉央は資金部の末席で、決裁会議では振込一覧を読み上げる係だった。

 琴平リテールの決算は、三月最終日に成立した新規取引で黒字へ転じていた。雑貨卸の星窓商事へ三億円を支払い、同日、海外向け販売会社の北港トレードから三億四千万円が入金されている。仕入れた商品を即日転売した、利益四千万円の優良案件だという。

「銀行確認も済んでいます」

 財務部長が言った。

 茉央は一覧の一行を読み上げてから、次の一行で声を止めた。数字の読み間違いをしないよう、彼女はいつも四桁、三桁、七桁に鉛筆で区切りを入れる。その日だけ、二本の線がまったく同じ場所に並んだ。

 銀行コード四桁、支店コード三桁、口座番号七桁。合わせて十四桁。

 星窓商事へ送った先と、北港トレードから入った資金の組戻し照会に記載された口座が、十四桁すべて同じだった。

 読み上げを続ければ、誰にも気づかれず承認は終わる。茉央は一度息を吸い、マイクを自分の方へ向けた。

「同じ口座です」

「何がだ」

「仕入先と得意先です」

 会議室の視線が、二本の数字へ集まった。

 営業本部長はすぐに言った。

「決済代行会社を使っている。珍しくない」

「契約書には、両社とも自己名義口座で直接決済するとあります」

 茉央は契約の署名ページを開いた。しかも二社の代表者署名は別人だった。

「代行なら、名義も代行会社になるはずです。銀行照会の名義は星窓商事でした」

「北港側が誤って星窓の口座から振り込んだだけだ」

「では、なぜ振込依頼人番号まで同じなのですか」

 答えはなかった。

 茉央は前日に見つけたもう一枚を机へ置いた。星窓商事への三億円には、四十分後の自動振替指示が付いていた。振替先は北港トレード名義の預金口座。商品は一度も動かず、会社の資金が名前を変えて戻ってきただけだった。

 社長が低く舌打ちした。

「四千万円の利益は、来月実物を売れば埋まる」

 監査法人の責任者は、承認用端末から電子証明書を抜いた。

「今、埋めるのは数字ではありません。取引の穴です」

 決算承認の緑色のランプが消えた。