『推薦欄の句点』

大樹信販の最終面接で、薬袋小夜は契約社員時代の低評価について説明を求められていた。

応募先は、三年前まで働いていた同じ会社の正社員枠だった。業務実績は十分なのに、当時の評価表には〈報告が遅い。顧客対応に不安あり。再雇用は推奨しない。〉とある。元上司の祝田匠も面接官席に座り、「残念だが記録どおりです」と言った。

小夜は評価表を見てから、静かに尋ねた。

「祝田さん、文末に句点を付けるようになったのはいつですか」

「何の話だ」

「あなたの社内文書は、昔から全部、体言止めです」

祝田は鼻で笑った。だが人事担当が過去五年の評価コメントを検索すると、祝田名義の百二十七件はすべて句点なし。小夜の低評価だけが三文すべて〈。〉で終わっていた。

「入力補助が整えたんだろう」

人事担当は版履歴を開いた。締切日の十七時版では、小夜はA評価。講評は〈事故案件で返金を防止/再雇用を強く推薦〉。翌朝八時十二分、祝田のアカウントでDへ変更されている。

祝田は「私が再考した」と言った。

小夜が一通のメールを示した。その時刻、祝田は地方支店への出張中で、全社員宛てに〈新幹線の通信不良につき午前中は社内システムへ接続不可〉と送っていた。CCには人事も入っている。

さらに変更端末は本社採用室のデスクトップ。会議室予約は、当時同じ正社員枠を受けた祝田の親族名義だった。ログには、その人物が祝田の一時パスワード再発行メールを開いた記録も残っている。

小夜は三年前、低評価を理由に契約満了となった。その翌月、祝田の親族が同じ机へ正社員として座ったことも人事記録に残っている。祝田は偶然だと言ったが、親族の採用申請には〈薬袋の後任〉と自筆で書いてあった。改竄は今回の選考だけでなく、三年前の席替えから続いていた。

祝田の顔から、面接官の余裕が消えた。

人事担当は小夜の応募画面に戻り、〈低評価による見送り〉を削除した。代わりに原評価Aを反映し、採用決裁へ進める。

「面接結果を訂正します。薬袋さんは採用です」

続いて祝田の名札が机から外された。

小夜を落とした句点は、面接官の任期にも句点を打った。