『面接前に採点された人』

新卒採用の最終判定会議で、採用責任者は一人の応募者に赤い印をつけた。

「面接態度に難あり。不採用」

応募者本人はいない。だがその日、学生代表として選考の透明性を確認する外部委員が同席していた。委員は、なぜ一次、二次とも最高点の応募者が落ちるのか尋ねた。

「最終面接で本性が出たんです」

責任者はそう答え、採点表を閉じようとした。

若い採用担当が、先月辞めた前任者のファイルを提示した。名前は「面接が終わるまで開かないでください.xlsm」。責任者は「退職者の悪ふざけだ」と止めたが、外部委員が開封を命じた。

画面には応募者全員の最終点が並んでいた。問題の応募者は四十点満点中十二点。責任者の説明どおりだった。

ただし、ファイルの更新時刻は面接開始の前日だった。

「評価枠を先に作っただけだ。点数は当日入力した」

版履歴を開くと、十二点は前日に入力され、その後一度も変更されていない。反対に、責任者の知人が推薦した応募者は、面接前から三十八点だった。

責任者は表計算ソフトの時計が狂っていたと言った。

前任者はそれも見越していた。ファイルの中に、会議室予約の自動通知が貼られている。最終面接室が予約された時刻と、採点表が保存された時刻は同じサーバーから記録され、前後関係は動かせない。

「前任者が数字を入れた可能性は?」

若い担当がアクセス履歴を表示した。入力した端末は責任者室。使用者は責任者。前任者は同時刻、退職面談で別の会議室にいた。

責任者は「仮の点数だ」と言い換えた。

外部委員は、応募者の面接記録を再生した。責任者が質問したのは二問だけ。残り時間は、応募者の父親が過去に会社を訴えた件への非難に使われていた。

前任者のファイル末尾には一文があった。

――点数を決めてから面接する人を、面接官とは呼べません。

外部委員は赤い印を消した。

「この応募者を採用候補へ戻します」

責任者が抗議しようとしたとき、若い担当の画面で別の欄が灰色になった。

最終面接官一覧から、責任者の名が消えていた。