ほどけた葉を巻き直す

葛西美弥が実家へ戻ると、母はロールキャベツを一皿だけ出した。

煮込みすぎたらしく、楊枝を抜く前から葉がほどけ、挽き肉が端からこぼれている。湯気に混じってキャベツの甘い匂いが上がり、箸で触れると葉は力なく裂けた。

母は向かいへ座ったが、自分の分は用意していない。美弥が「少し泊めて」と電話したときも、理由を聞かなかった。

婚約者と暮らす部屋を出てきたことは言ってある。けれど、財布を預けるよう求められたことも、給料の使い道を毎晩確認されたことも話していない。友人との食事を断るたび、「結婚前は節約するもの」と自分へ言い聞かせた。美容院の予約を取り消されたときも、無駄遣いを止めてもらったのだと思った。昨日、通帳を返してほしいと言うと、婚約者は玄関の鍵を隠した。

鍵が見つからず、非常用に預けていた管理会社の番号へ電話した。開いた玄関から出るとき、靴を一足と仕事鞄しか持てなかった。指輪は外せず、手の中へ握り込んだまま母へ電話した。

殴られてはいない。怒鳴られたのも一度だけだ。だから、逃げてきたという言葉を使う資格がない気がした。母に話せば、結婚を喜んでくれた親戚まで巻き込み、自分が大げさな娘になる。式の招待状はもう発送してある。祝儀を用意した人たちの顔まで思い浮かべると、戻るほうが迷惑を少なくできるように感じた。

美弥は崩れた一個を、自分の皿の中で巻き直した。箸ではうまくいかず、葉の端を何度も肉の下へ押し込む。母は手を出さなかった。

巻き直した形は、最初より小さく、いびつだった。美弥はそれを一口ずつ食べた。柔らかな葉は噛む前にほどけたが、中身は皿の外へ落ちなかった。

二個目には触れず、皿の中央を空けた。コートのポケットから、婚約者の部屋の鍵を取り出して置く。続けて、銀行のカードと、式場の予約票も重ねた。

「なくされたんじゃなくて、持って出た」

母は鍵を見たまま、鍋の火を消した。

美弥は最後に残った肉のひとかけを食べず、ほどけた葉で包んだ。きれいには巻けなかった。それでも、母は新しい楊枝を一本、皿の脇へ置いた。

今夜は留めてもらっていいのだと分かり、美弥は皿から手を離した。母は客用の布団ではなく、美弥が高校まで使っていた布団を押入れから出した。

残した一個は、明日の朝に食べるため冷蔵庫へ入れられた。戻るかどうかを今夜中に決めなくても、この家で次の一食まで過ごしてよい。そのことだけで、握ったままだった指輪から指をほどけた。