オフラインの相棒
榎戸ヤシロは、隣を走る相棒を見ながらフレンド欄を開いた。
《KITE:OFFLINE》
最終接続地点:現実世界。
「見るなよ。今は追手を撒くのが先だ」
隣のカイトが笑う。声も癖も、昔のままだ。ログアウト不能になった夜からずっと一緒に戦ってきた。だがこのゲームのフレンド状態は誤表示しない。オンラインなら緑、死亡なら灰、外へ戻った者だけが青い《OFFLINE》になる。
「お前、誰だ」
ヤシロが剣を向けると、カイトは傷ついた顔をした。
「三年一緒にいた相手へ、それか?」
背後から追跡騎士が迫る。偽者を疑っている場合ではない。それでもヤシロは、フレンド欄の《最終接続地点》を押した。簡易マップに、世界の外を示す青い矢印が現れる。
カイトは矢印と逆方向へ走った。
「出口はこっちだ!」
「フレンド欄は嘘をつかない」
「じゃあ、俺との三年は嘘だったのか!」
その叫びだけは本物に聞こえた。ヤシロは足を止める。
ログアウト事故の直前、現実のカイトは接続試験をキャンセルしていた。家族の都合で病院へ向かったはずだ。なら最初から、この世界に彼はいなかった。
偽カイトは剣を下ろした。
「お前が一人で壊れないよう、記憶から作られた」
追跡騎士が二人を囲む。偽カイトはヤシロを青い矢印の方へ突き飛ばし、自分だけ騎士へ向き直った。
「行け。外の俺が待ってる」
ヤシロは走った。矢印の先には扉も門もなく、空中に《KITE:OFFLINE》の文字だけが浮かぶ。触れると、病院の待合室が開いた。現実のカイトが、やつれた顔で端末を握っている。
「遅いぞ」と彼は泣いた。
振り返ると、偽カイトは騎士ごと光へ溶けていた。三年間は嘘ではなかった。存在の出所が違っただけだ。
現実のカイトの端末には、偽カイトが記録した三年分の戦闘ログが届いていた。冗談も喧嘩も、ヤシロを庇った回数も残っている。現実の友人は画面へ手を置き、「俺より俺らしいな」と、消えた分身へ礼を言った。
《フレンドの現実接続を確認しました》
《記憶補助アバター“KITE”の任務を終了します》
《ログアウト不能患者を、登録済みフレンドの現実座標へ転送します》