グループ名を変える夜
「連絡は、必ずバンドのグループへ」
三宅風花は、個別連絡を嫌う児玉隼矢から何度もそう言われていた。五人組のインディーズバンドで、ボーカルとギターだけが親しげに見えれば空気が乱れる。実際、以前のメンバーは恋愛沙汰で脱退した。隼矢は同じ失敗をしないため、風花との会話まで全員に見える場所へ置いた。
解散ライブを終えた夜、グループには写真と労いの言葉が流れ続けた。メンバーは就職や留学で別々になる。隼矢とも、もう毎週会う理由がない。
風花は姉へ送るつもりで、メッセージを書いた。
《隼矢にだけ、解散後も会いたいって言えなかった》
《バンドがなくなったら、私たちは何になるんだろう》
《一度くらい、二人だけの連絡先がほしかった》
送信先は姉ではなく、バンドのグループだった。
既読が一つ、二つ、三つと増える。風花が削除ボタンを探す前に、ベース担当から《お疲れ!》、ドラム担当から《やっとか》、キーボード担当から拍手のスタンプが届いた。
最後まで隼矢だけが既読にならない。
恥ずかしさに耐えられず、風花はライブハウスの裏口へ逃げた。そこに隼矢がいた。スマホを持たず、二本の缶ジュースを抱えている。
「充電、切れてた」
「じゃあ、まだ見てない?」
風花が息をつくと、隼矢は彼女の手からスマホを受け取った。グループの最後の投稿まで読み、しばらく黙る。
そしてメンバー全員を退室させた。
画面には風花と隼矢だけが残る。彼はグループ名《LAST SESSION》を消し、《風花と隼矢/次の土曜》へ変えた。アイコンも集合写真から、今夜ステージ袖で撮った二人の写真に替える。
「個別連絡は嫌いなんじゃないの」
「連絡が隠れるのが嫌だった。これなら、二人とも見える」
隼矢は缶を一本渡し、空いた手で風花の指を握った。ライブ後の熱がまだ掌に残っている。
元メンバーから、新しいグループへ《次はデート報告で》と招待が飛んできた。隼矢は拒否し、代わりに土曜の待ち合わせ場所を入力する。
連絡は必ずグループへ。
バンドが終わった夜、そのグループは初めて、二人だけで続いていく場所になった。