コタツ株式会社

 柚木沢眞由と兄の哲朗は、冬になると「コタツ株式会社」を設立する。

 父が残した債券の利息と、母が貸している月極倉庫の収入で、二人は実家に暮らしている。会社員ではないが、何も組織がないのは落ち着かないので、こたつを本社にした。

 午前十時半、取締役会が始まる。

「第一号議案、みかんの皮を誰が捨てるか」

 眞由が議長を務める。

「昨日は俺」

「昨日の皮は三枚。今日の山は七枚」

「枚数で労働を評価するな」

「重量制にします?」

 哲朗はこたつから出るくらいなら、議論を長引かせる方を選んだ。

 第二号議案は、昼食。

 冷蔵庫には白菜と豚肉がある。

「鍋なら、ここで食べられる」

「台所へ行く人が必要」

「社員募集」

「誰が応募するんだ」

 二人は求人条件を考えた。

〈勤務地・こたつから六歩。報酬・鍋。休憩・無制限〉

「待遇はいい」

「通勤が寒い」

 応募者は出なかった。

 正午を過ぎ、腹が鳴った。

 哲朗が先に折れ、こたつから片脚を出す。

「暫定CEOとして行ってくる」

「最高経営者が調理担当?」

「小規模企業だから」

 眞由も結局ついていき、二人で白菜を切った。

 土鍋へ昆布、白菜、豚肉、葱を重ねる。

 蓋をして火にかけると、しばらくして湯気が縁から漏れた。出汁と肉の匂いが台所から本社まで届く。

「業績が上向いた」

「匂いだけ」

「期待値込み」

 土鍋をこたつの中央へ置き、柚子胡椒を添えた。

 熱い白菜を息で冷まし、豚肉を一枚ずつ取る。

「役員報酬として肉を二枚多く」

「議長権限で否決」

「調理担当手当」

「葱を多めにどうぞ」

 食後、二人は動けなくなった。

 みかんの皮は、鍋の空いた皿へまとめた。

「誰が捨てる?」

「次期会計年度へ繰り越し」

「腐る」

「では共同債務」

 結局、土鍋を運ぶついでに二人で片づけた。

 午後三時、取締役会は自然閉会した。

 眞由は本を読み、哲朗は昼寝をする。窓の外では細い雪が降り始めた。

 こたつ布団には柚子胡椒とみかんの香りが混じり、足元には二人分の温度がたまっている。

 コタツ株式会社は利益を生まない。

 けれど一人では出たくない場所へ二人で立ち、食べ終わった鍋を台所まで運ぶ程度の共同事業は続いていた。

 雪が積もるまで、次の議案は決めないことが満場一致で可決された。