サボり同盟、解散

五時間目の古典を抜け出すと、非常階段には先客がいた。

「遅い」

彼は僕の分の紙パックコーヒーまで買っていた。僕らは月に一度だけ、同じ授業をサボる。理由はない。古典が嫌いなわけでも、教室に居場所がないわけでもない。ただ、月に一度くらい、時間割の外へ出てみたかった。

非常階段の踊り場は、校庭も道路も半分ずつ見えた。風が抜け、紙パックのストロー袋が足元で転がる。

「今日で解散な」

彼が言った。

「何が」

「サボり同盟」

冗談だと思い、僕は笑った。けれど彼は笑わなかった。

来週、転校するのだという。父親の仕事で、北の町へ行く。担任からは明日のホームルームで話されるらしい。

「急だな」

「先月から決まってた」

「じゃあ言えよ」

「言ったら、ここが送別会になるだろ」

彼はストローを噛んだ。いつもなら僕も同じように噛み、どちらが先に潰すか競う。今日はできなかった。

窓の向こうから先生の声がかすかに聞こえた。助動詞の説明らしい。教室では、彼の席も僕の席も空いている。

「最後なら、もっと派手にサボればよかった」

「屋上とか?」

「町まで行くとか」

「それはただの早退」

彼がやっと笑った。

僕は腹が立っていた。転校することより、先月から何も知らされなかったことに。けれど怒れば、残りの時間が怒った顔だけで終わる気がした。

「次の学校でもサボるの」

「相棒が見つかったら」

「見つけるなよ」

「独占欲?」

「同盟規約違反」

僕らは存在しない規約を次々に作った。無断転校禁止。相棒の交換禁止。サボった日のコーヒーは甘いものに限る。違反者は、卒業後に元の非常階段へ集合する。

チャイムが鳴った。彼は空の紙パックをつぶし、立ち上がった。

「戻るか」

「最後なのに?」

「最後だから」

教室へ戻る廊下で、彼は先に歩いた。担任に見つかり、二人そろって叱られた。理由を聞かれても、僕らは黙っていた。

翌日のホームルームで転校が告げられると、教室は驚きの声で満ちた。僕だけは驚かなかった。彼がこちらを見て、ほんの少し口角を上げた。

転校の日、駅まで見送りには行かなかった。僕らの別れはもう、非常階段で済んでいたからだ。

三年後の卒業式。式が終わって非常階段へ行くと、踊り場に甘い紙パックコーヒーが二つ置いてあった。

一つには、潰れたストローが刺さっていた。