センサーの向く先

長峰文哉は、養父の敬策が住む家の玄関灯を交換していた。

電球だけなら五分で終わるはずだった。だが敬策は、人感センサー付きの器具を買ってきた。古い配線を外し、壁へ新しい穴を開けなければならない。

「業者を呼べよ」

「電気工事士の息子がいる」

「十年前に資格取っただけ」

「失効する資格じゃない」

文哉は脚立に上がり、敬策は下で工具を渡した。二人の会話はそれで足りた。

文哉は二十歳のとき、戸籍謄本で自分が養子だと知った。敬策も亡くなった養母も、隠したつもりはなく「聞かれなかった」と言った。その言葉があまりに雑で、文哉は家を出た。以来、帰るのは設備が壊れたときだけだ。

新しい器具を取り付け、ブレーカーを戻す。配線の被覆を剥く文哉の手元を、敬策は懐中電灯で照らした。光が何度もずれ、文哉が怒ると、敬策は老眼のせいだと言い訳した。灯りは点いたが、門を通っても反応しない。

「センサーの角度が高い」

「お前が付けた」

「買ったのはそっちだ」

文哉はまた脚立へ上がり、検知範囲を下げた。敬策が門の外へ出て試す。点かない。もう一段下げる。今度は野良猫に反応した。

三度目、敬策がゆっくり歩いてくると、玄関が白く照らされた。敬策は満足そうに頷いた。

「夜中でも点くな」

「夜中に誰が来るんだよ」

「お前、仕事終わるの遅いだろ」

文哉はねじ回しを止めた。

敬策は気づかないふりで、脚立を畳んだ。玄関脇には、文哉が高校のとき削った自転車の傷がまだある。塗り直せば消えるのに、そのままだ。

「センサー、少し道路まで拾う」と文哉は言った。

「防犯になる」

「隣に迷惑だ」

「じゃあ次、直せ」

文哉は工具を箱へ戻したが、小さな角度調整用の六角レンチだけ玄関の靴箱へ置いた。持ち帰れば、次は敬策が一人で脚立に上がる。

帰りかけて門を出ると、背中で灯りが消えた。文哉は道路を十歩進み、振り返ってもう一度門をくぐった。

玄関灯が点く。敬策はまだ扉を閉めずにいた。

「感度、これでいい」

そう言って、文哉は靴を脱いだ。夕飯が冷めるまで、あと少しだけ調整することにした。