チャンネルを消して一人を戻す
《黒瀬蓮、今度は大物の事故で売名か》
《登録者を買った疑惑に答えず救助枠とか》
《神楽バレットはもう心停止。蘇生期限も残り二十秒だぞ》
骸時計宮の床に、人気配信者・神楽バレットが倒れていた。
胸部を貫いた針は抜かれている。だが蘇生石は砕け、回復役は結界の外。画面の死亡猶予だけが赤く減っていく。
黒瀬蓮は傍らに座り、自分の配信管理画面を開いた。
四年間の配信履歴。八千本を超える短い攻略動画。登録者の急増が不正だと騒がれ、企業案件もすべて停止中だった。削除確認欄には、復元不能、収益権消滅、実績初期化の三つの警告が並ぶ。蓮が生活費を削って揃えた機材も、初めて百人が見てくれた夜も、押せば記録から消える。
《救命アイテムなし》
《残り十秒》
《何を消そうとしてる?》
蓮は設定の最下段にある【チャンネルを完全削除】を一度だけ押した。
画面から動画も、登録者も、積み重ねた記録も消える。
同時に、神楽の胸を貫いていた傷が巻き戻った。散った血が身体へ戻り、止まっていた心臓が強く一度跳ねる。
蓮の技能《配信代償》。自分が配信に費やした時間をすべて失う代わりに、一人の時間を同じだけ戻せる。買ったと疑われた登録者ではない。毎日積み上げた配信時間こそが、技能の燃料だった。
《死亡表示が解除された》
《神楽の時刻だけ三十一秒戻ってる》
《運営監査:登録者購入の痕跡なし。増加日は初心者向け動画の連続投稿日と一致》
《四年分を、本当に一クリックで捨てたのか》
神楽が咳き込み、目を開ける。
「お前のチャンネルは」
「消えた」
「なんで、俺に使った」
「俺の動画を最初に紹介したの、お前だろ。借りを返しただけだ」
蓮の配信画面は真っ黒になった。それでも神楽の胸元カメラが、蓮の笑う顔を映している。
神楽は起き上がると、自分の一千万人が見ている配信で、新しい共同配信を開始した。
《新チャンネルできた》
《登録ボタンどこ》
《監査結果を固定しろ。疑って悪かった》
《同接が秒で増えてる》
何もなかった蓮の新しい画面に、最初の数字が刻まれた。
【新規チャンネル同時視聴者数:1,200,000人】