ピントの外の姉妹
野々宮弥栞は、写真店のカウンターで父のカメラを開けてもらった。
中には古いメモリーカードが一枚入っていた。隣に立つ姉は、「家族写真だけ印刷しよう」と言った。
画面に映る写真は、ほとんど姉へピントが合っていた。卒業式、海水浴、成人の日。父はいつも「お姉ちゃんを見習え」と言い、弥栞が笑っていない写真だけを消した。
姉の写真には〈百点〉〈きれいに撮れた〉とファイル名がつき、弥栞の写真は番号だけだった。弥栞は、父が自分を見ていなかったと思っていた。けれど一覧を眺めると、見ていないのではなく、父が残したい形に合わない瞬間だけ外されていたのだと分かった。
姉は自分の写真を開くたび、姿勢を正す癖がまだ残っていた。
弥栞はそれを指摘しなかった。姉の形見まで解釈する役になれば、また父の目線を引き継ぐことになる。二人は画面を一枚ずつ送り、理由を尋ねずに残す印だけをつけた。
店員が一覧を送ってくれた。最後のほうに、庭の隅でしゃがむ弥栞がいた。顔はぼけ、手元の野良猫だけが鮮明だった。
「これ、残すの?」姉が尋ねた。
「うん。私が選ぶ最初の一枚にする」
姉は少し傷ついた顔をした。姉もまた、父に見られ続けた側だったのだと弥栞は知っている。上手に笑うことを求められ、妹の見本でいる役目を降りられなかった。
二人は、欲しい写真を十枚ずつ選んだ。同じ写真を選んでもよく、どちらも選ばなかったものは消すと決めた。
姉が、父と二人で写る成人式の写真を外した。
「それは要らないの?」
「私が欲しいと思ってると、決めないで」
弥栞は謝らず、「分かった」と答えた。
選択が終わると、カメラ本体は地域の写真教室へ寄付する申込書を書いた。父の目線を誰かに譲るのではない。道具だけを、次に使う人へ渡す。
プリントされた二十枚を、二人は別々の封筒に入れた。
店を出る前、弥栞はぼけた自分と猫の写真を確かめた。ピントが合っていなくても、そこにいたことまで消えるわけではなかった。