レベル一の拳は嘘をつかない

《レベル表示を一に書き換えてるだけ》

《中身はカンスト垢だろ》

《久我轟、初心者詐欺で数字稼ぎか》

久我轟は、鑑定水晶へ手を置いた。公開された結果は、何度測ってもレベル一。取得経験値もゼロだった。

三つのギルドが別々に持ち込んだ水晶も同じ数字を返す。轟は装備をすべて預け、布の手袋まで裏返して見せた。

第十五層の門番・経験喰らいは、相手のレベルに応じて硬くなる。高位探索者ほど不利で、低レベルなら攻撃力が足りない。だから単独討伐記録は存在しない。

轟は拳を握った。

「レベルって、上げないと強くなれない数字だったか?」

経験喰らいの全身が黒い鎧に閉ざされる。床から吸い上げた経験値が幾層もの防壁となり、巨腕が轟を叩き潰そうと落ちてきた。

轟は拳を一度、前へ出した。

接触したのは鎧の表面だけだった。

音は遅れて届いた。防壁が内側から丸く膨らみ、経験喰らいの背中まで拳形に突き抜ける。巨体は立ったまま砂へ崩れ、吸われていた経験値が光の雨になって迷宮へ戻った。

《待って、スキル使用ログなし》

《鑑定水晶の署名は本物。レベル一で確定》

《鎧の防御値、最高位探索者向けに自動調整されてる》

《つまり門番は轟を最高位以上と判定したのに、表示だけ一?》

轟は降ってくる経験値の光を避けた。一粒も触れないよう、ゆっくり出口へ歩く。

「強くなるたび数字が増えるなら、数字に強さを預けることになる。俺は預けなかっただけだ」

解析者たちが、過去の配信ログを掘り返す。轟は討伐報酬を毎回放棄し、経験値を受け取らずに身体だけを鍛えていた。

《不正アカウントじゃない。最初から一度もレベルアップしてない》

《ステータス補正ゼロでこの威力》

《偽物はレベル一じゃなく、“レベルが強さを示す”って常識だった》

《初心者詐欺じゃない。永遠の初心者が世界最強になった》

配信画面の鑑定欄に、管理局から追記が入る。

【レベル:1】

【総合戦闘力:測定不能】

その二行を映したまま、同時視聴者数がレベルの百万倍を越えた。