一万本の矢を受領します

国境砦の補給係カディナは、兵士たちから「受け取り屋」と呼ばれていた。

戦えないくせに、荷札へ署名する時だけ妙に堂々としているからだ。彼女の収納には、こちらから触れに行けないという致命的な欠点があった。

【固有スキル《受領収納》:使用者へ届けられた物は、受領の意思を示すことで非接触のまま一括格納できる】

商人の荷馬車なら便利だ。だが戦場で敵が荷物を届けてくれるはずもない。将軍の息子ベルクは毎朝、泥のついた靴を投げて「配達だ」と笑った。カディナが受け取らなければ、臆病者と呼ばれた。

砦が三万の敵軍に包囲されたのは、冬の終わりだった。

城壁の投石器は壊れ、援軍は五日先。敵将は夜明けと同時に総攻撃を命じた。空が暗くなるほどの長弓兵が並び、鏃へ火を灯す。

ベルクは門を開けて逃げようとした。

「砦はもう持たない。補給係、お前が残って降伏の荷札に署名しろ」

門の外には避難できなかった住民が二千人いる。門を開けば敵兵がなだれ込み、閉じれば火矢が屋根を焼く。

カディナは物見台へ上がった。敵将が剣を振り下ろし、一万本の弦が鳴る。

矢は砦を滅ぼすため、確かにこちらへ届けられた。

送り主も、宛先も、これほど明確な荷物はない。

カディナは空へ向け、受領証の代わりに右手を掲げた。

「国境砦補給部、カディナ。全便、確かに受領します」

能力を使ったのは、その一度だけだった。

火矢の群れが城壁まで十歩の位置で消えた。

一本ずつではない。敵軍が同時に放った「一便」として、炎も毒も勢いもまとめて空き枠へ収まる。青空が戻り、敵の長弓兵は何も持たない両手を見つめた。

砦兵は歓声すら忘れていた。

カディナは逃亡用の馬へ跨がったベルクを振り返り、いつもの受領印を差し出す。

「次は、あなたの退役届を受け取ります」

将軍が息子から剣を取り上げ、全兵士の前でカディナへ敬礼した。砦の軍籍板に、新しい金文字が走る。

【職業が《補給係》から《天蓋兵站姫》へ書き換わりました】