一口だけ残して
店へ着くと、窓際に八重たち三人がいた。
私には「今月は集まらない」と言っていたのに、テーブルにはパンケーキが重なっている。
店内には焼けたバターの匂いが満ちていた。学生の頃、八重が失恋して一皿食べきった夜から、私は彼女の食事を見てきた。感情で食べる癖は、親友が止めなければ治らない。
私は空いた椅子へ座り、ナイフで四等分した。八重の皿だけ、一切れをさらに半分にする。最近むくんでいたからだ。八重が手首を引いた。袖の下には、以前私が贈った細いブレスレットがなかった。目標体重になったら着けようと約束したものだ。
もう一つ、三人とも料理を撮らなかった。毎週、私が写真を集めて食事記録を作り、月末には一番努力した子を決めていたのに、証拠を残さないつもりらしい。撮り忘れた日は、レシートと排水口の生ごみまで見せてもらった。嘘をつかせないための工夫だった。
「抜け駆けはよくないよ」
私は笑って、バッグから携帯用の秤を出した。ソースをかける前なら、正しい重さが分かる。
八重は店員を呼び、私の前の皿を下げてもらった。
「もう記録しないで」
「あなたがまた太って泣かないようにしてるの」
「泣いたのは、薫が私の体重をみんなに送ったから」
三人のスマートフォンには、私が作った順位表が残っていた。体重、摂取量、恋人に見せられる服かどうか。最下位には泣き顔の絵文字をつけ、励まし役として残り二人にも送った。仲間同士なら刺激になると思った。八重が食べすぎた夜、私は彼女の家へ行き、翌日の食事を捨てた。ワンピースが緩くなった時は、達成感を忘れないよう内側を縫って細くした。
全部、本人が「痩せたい」と言ったからだ。
八重は医師から渡された紙を見せた。治療のため、私との連絡を断つと書いてある。ほかの二人も、共有アルバムと体重表を削除した。
三人はパンケーキにたっぷりソースをかけ、一口も残さず食べた。
私は店の外からその皿を撮影し、《八重、失敗一回目》と新しい記録を作った。