一枚遅い献立表
午前十時五十分、病院厨房のトレーラインが残り四十食になったところで、久遠寺環は同じ病室番号を二度見つけた。一枚は通常の献立、もう一枚は嚥下調整食。印刷時刻は後者が七分新しい。
病棟からは「あと十分で受け取りたい」と電話が入り、ラインの皿は次々に冷たい区画へ進んでいた。環は患者の事情を推測しなかった。厨房が扱うべきなのは、最新の指示がどれか、そしてどの膳に反映されたかだけだ。思い込みで理由を足すほど、確認する項目がぼやける。
「古い方を捨てればいいですよね」
盛り付け担当が通常の膳を持ち上げた。環はその手を止めた。差し替え票が一枚遅れて届いたということは、同じ時間帯に変更された患者がほかにもいるかもしれない。目の前の一膳だけ直して流せば、別の誤りを見逃す。
ただし全ラインを止めれば、温かい料理まで冷えてしまう。環は変更時刻の前後十分に印刷された票だけを抜き出し、その範囲の十二膳を脇へ寄せた。最新の一覧を端末で開き、部屋番号、氏名、食形態を一つずつ読み上げる。二人目の担当者が器の形と封印を確認した。
十二膳のうち、変更のない十一膳には青い磁石を置き、確認済みであることを示した。一膳ずつ戻せば、途中で呼ばれても未確認と混ざらない。環は最新一覧の画面を閉じず、差し替えが反映された時刻まで記録した。
誤っていたのは最初の一膳だけだった。病棟からの連絡は正しく、厨房側のプリンターが更新前の帳票を一枚だけ残していたのだ。環は通常食を戻さず、器ごと交換した。盛り付け途中のものを削ったり潰したりすれば、必要な状態に揃わないからだ。
環は止めた十二膳の番号を申し送り帳へ残した。次の勤務が同じ印刷遅れを見ても、最初から探し直さなくて済む。
十一時六分、最後の膳がラインを抜けた。配送担当が「全体を止めずに済んだ」と息を吐いた。
環は古い票に大きく斜線を引き、プリンターの排紙台を空にしてから次の印刷をかけた。配膳車が病棟へ向かうと、今度は空の車が昼食後の回収口へ並び始めた。
午後の差し替え票が、すでに一枚届いていた。