七歩目の同行者

歩行データ会社で働く二十六歳の鯨井凛久は、削除申請のあったアプリ「辻数え」を調べていた。見た目は万歩計だが、利用規約の奥に民俗学者の覚え書きが埋め込まれている。

《六辻の送り》――夜中、六つの道が交わる場所で六歩進み、振り返らず戻れば、悪い縁だけを置いてこられる。

禁忌は一つだった。

《六回目の振動が来たあと、七歩目を踏んではいけない》

七歩目は「置いてきたものが追いつくための足場」になる、と注釈されていた。

凛久は検証用スマートウォッチを着け、午前零時に郊外の六差路へ立った。画面録画と位置情報を開始する。

一歩ごとに腕が震えた。四歩目で街灯が消え、五歩目で背後に靴音が増えた。六歩目の振動は、手首ではなく胸の内側から響いた。

そこで止まる予定だった。

だが右手の細道から、無灯火の自転車が突っ込んできた。避けなければ衝突する。凛久は反射的に左足を出した。

七歩目を、一度だけ踏んだ。

自転車は目の前を通過した。乗っていた男には顔がなく、首から上が夜空と同じ色だった。

帰宅後、歩行ログをCSVで出力すると、奇妙な列が追加されていた。

【本人歩数】

【同行者歩数】

【同行開始地点】六差路

削除しても翌朝には戻った。通勤中、凛久が一歩進むたび、半拍遅れてウォッチがもう一度震えた。電車の窓には彼の影が二つ映り、片方だけが七歩目から歩き始めていた。

位置履歴を重ねると、同行者は凛久の半歩後ろではなかった。六差路に残った一点と凛久の現在地を、一本の直線で結びながら移動している。建物や川を無視した軌跡は、夜になるたび短くなった。

昼休み、ウォッチは〈同行者まで七歩〉と表示した。夕方には六歩、玄関前では一歩になった。

会社で解析端末に接続すると、同行者の歩数は凛久と同じ数まで増えていた。心拍数も二人分あり、一方は毎分零のままだった。

夜、玄関前で位置共有アプリが通知を出した。

〈凛久さんが自宅に到着しました〉

鍵を開ける前に、同じ通知がもう一度鳴った。

〈同行中の凛久さんも到着しました〉

背後で七歩目の靴音が止まり、スマートロックが日常的な声で告げた。

「二名の帰宅を確認しました」