三回死ねば最速
久慈ミコトは崖際で立ち止まり、飛び降りる仲間たちを見送った。
《デスショートカット》
走者が死亡するたび、公式タイムから三十秒減算。
復活回数:三。
一度死ねば三十秒、三度で九十秒。世界記録保持者は、開始直後に三回自殺して負の記録を出した。
「早く落ちろ!」
仲間は復活光とともに先のチェック地点へ移動する。ミコトの横には、護送対象の老司書がいる。NPCは復活しない。
「私は置いていきなさい」
老司書の背には、世界地図の原本がある。ゴールへ届けなければ、崩壊区域の町が地図から消える。
ミコトは通常路を走った。罠、魔獣、崩れる階段。先行組は死亡短縮で何度も飛び越え、あっという間に見えなくなる。
残り十秒。老司書が転ぶ。
ゴールは目の前だ。背負えば間に合わない。ミコトは彼を地図ごと抱えた。
時間切れの鐘が鳴る。先行組の記録は《-47秒》。歓声が上がる。
その直後、彼らの名前がランキングから消えた。
《完走時生存回数:0》
《復活権を使い切った走者は、ゴール後の現実復帰対象外》
三度目の死から戻ったアバターは、走るための仮データだった。本体は各死亡地点へ分割され、完走者として帰れない。
ミコトは制限時間を二十二秒超えてゴールする。老司書が地図を台座へ置くと、消えかけた町々が戻り、途中で死んだ走者たちの本体座標も記入された。
《公式タイム:失格》
《生存帰還者:全走者》
地図へ記された死亡地点から、先行組の本体データが一人ずつ回収された。復活後の彼らには、自分が三か所へ引き裂かれていた記憶がない。
世界記録保持者だった走者は、負のタイム表示を見て震えた。
「速くなったと思っていた。自分を削って、表示だけを先へ送っていたのか」
老司書は地図の余白へ、ミコトが転ばず走った道を太く描いた。崖も罠もある遠回りだが、後続者が一度も死なずに辿れる最初の経路になった。
《最速記録を抹消――死を近道として扱う競技で、最初から最後まで生きて走った者を救助者と認定します》