三枚目の履歴書
千景は転職サイトを開くと、求人より先に同年代の経歴を見た。
二十五歳で主任、二十六歳で海外赴任、二十八歳で新規事業を立ち上げた人。紹介文には迷った夜も失敗した朝もなく、すべてが矢印で次の成果へつながっている。千景は自分の履歴書を見比べ、「補助」「同行」「一部担当」という言葉を消した。
消しては、少し大きな言葉に替える。会議の議事録は「プロジェクト推進」、顧客への確認電話は「折衝」、三人分の予定調整は「チームマネジメント」。嘘ではないと言い聞かせても、読み返すたび、自分の服を借り物の肩幅に合わせているようだった。
三社目の応募締切は今夜だった。千景はカフェの隅で、経歴の華やかな女性のページと履歴書を左右に並べた。彼女の「売上を二倍にした」という一文の隣で、自分の三年間が薄く見える。
また「補助」を消そうとしたとき、店員が空いたグラスを下げた。テーブルには水滴の輪だけが残る。千景は無意識に紙ナプキンで何度もこすったが、輪は乾けば消える程度のものだった。
一度目の面接では、書き換えた経歴について詳しく聞かれ、千景は自分の仕事なのに他人の話をするような答え方になった。帰宅後、うまく話せなかった理由を準備不足だと決めつけ、さらに大きな言葉を足した。経歴を立派にするほど、自分がその文章から遠ざかることには目を向けなかった。今夜も同じ直し方をすれば、三枚目の履歴書まで知らない人になりそうだった。
ブラウザの比較ページを閉じる。履歴書だけが画面いっぱいに広がった。
千景は「新規顧客開拓を推進」を、「初回訪問に同行し、議事録と次回提案の準備を担当」に戻した。小さく見える文章だったが、そこには自分が実際に座った会議室と、緊張しながら渡した資料があった。
送信ボタンを押しても、手応えはなかった。採用される保証も、これで正しいという確信もない。ただ、知らない誰かの経歴に合わせて自分を膨らませる作業を、今夜は続けずに済んだ。
送信完了の画面を閉じ、千景は水滴の輪をもう拭かなかった。窓の外では、自転車のライトが一つずつ、他の光と違う速さで通り過ぎていった。