三段重ねの自由

 竜人衛兵ヴェルガスは、チーズバーガーを前にして姿勢を正した。

 丸いパンのあいだに、焼いた肉、溶けた黄色いチーズ、玉葱、レタス、薄い胡瓜が重なっている。王城の晩餐なら、それぞれ別の皿で出されるものばかりだ。

「どの順番で食べる」

「そのまま、上から下まで一緒に」

「皿を使わず?」

「紙で包んで、両手でどうぞ」

 異界交流所の食堂係は、赤と白の紙を折って見せた。

 ヴェルガスは休日だった。それでも制服を着込み、剣を腰へ下げている。王女の護衛を外れて一日過ごせと言われたが、何をすればよいか分からず、交流所の柱の横に三時間立っていた。

 意を決してバーガーを持つ。厚みがありすぎて、顎を大きく開けなければならない。一口目で、肉汁とソースが紙へ落ちた。炭火の香り、チーズの塩気、玉葱の甘さ、ピクルスの酸味が一度に押し寄せる。

 ヴェルガスの喉から、低い唸り声が漏れた。

「怒りました?」

「違う。これは……味が隊列を組んでいない」

「喧嘩してますか」

「いや。勝手に動いているのに、最後は一つになる」

 二口目には、鼻先へソースがついた。食堂係が紙ナプキンを差し出す。ヴェルガスは周囲を見回したが、誰も彼を笑っていない。隣の学生はポテトを頬張り、反対側の老人は指についたチーズを舐めている。

「王城では、食事中に口元を汚すと注意される」

「ここでは、拭けば終わりです」

「簡単すぎる」

「休みの日くらい、それでいいでしょう」

 その言葉に、ヴェルガスは初めて剣帯を外した。背もたれへ掛けると、尾が楽に動かせる。紙の中で少し崩れたバーガーを、今度は気にせず押さえた。

 最後の一口には、焦げた玉葱とチーズの端が集まっていた。濃く、少し塩辛く、休日の味がした。

 店を出る前、彼はポテトも追加した。一本ずつ食べるうち、何も守っていない時間が、少しだけ怖くなくなった。

 夕方の風に当たると、鱗の隙間にまで焼いた肉と胡椒の香りが残っていた。ヴェルガスは剣を袋へ入れ、手ぶらに近い姿で町を一周してから帰った。