不合格を災厄へ譲ります

海老名創の登録試験は、三つの的を壊せば合格という単純なものだった。

一つ目は木、二つ目は鉄、三つ目は魔法を弾く黒石。ところが能力鑑定の針はゼロで止まり、創が借りた槍は木の的にさえ浅い傷しかつけられない。

「能力なし。三枚どころか、一枚目に不合格を教えられたな」

試験官が笑い、登録票へ大きな赤印を押した。

その赤印を見た瞬間、創の視界に文字が現れた。

《失敗譲渡》

自分に確定した失敗一つを、指定した対象へ一度だけ移す。

不合格を誰かへ押しつける能力。使い方によっては、最低だ。創は元の世界で、上司の失敗を押しつけられて職を失った。だから人には使わないと、その場で決めた。

試験官が次の受験者を呼ぼうとしたとき、訓練場の奥に安置された黒い像が鳴った。三つ目の的に使われていた黒石は、災厄を封じる石像から削り出したものだったらしい。的についた傷を通して封印が割れ、六本腕の魔神像が立ち上がる。

上級冒険者の剣が弾かれ、魔術は吸われた。像の胸には《破壊不能》《封印不能》《停止不能》の古代文字が光っている。

試験官は結界扉へ殺到したが、鍵が開かない。魔神像が六本の腕を広げ、受付棟ごと押し潰そうとする。

創は自分の登録票を拾った。

赤い《不合格》は、もう確定している。

「これ、譲ります」

彼は《失敗譲渡》を使い、魔神像を指した。

登録票から赤印が消えた。

同時に、像の胸へ巨大な文字が刻まれる。

《存在判定・不合格》

破壊不能の腕が透けた。封印不能の胴が輪郭を失う。止められないはずの災厄は、世界そのものから「ここにいてよい」と認められず、足元から細かな灰になった。六本の指先が最後に宙を掻き、そのまま跡形もなく消える。

静まり返った訓練場で、創の登録票だけが白く輝いた。

《試験結果・未判定》

総本部から視察に来ていた老冒険者が立ち上がり、赤印を押した試験官の手から印章を取り上げる。

「災厄へ不合格を言い渡せる者を、誰が落とせる?」

新しい金色の合格印が机へ置かれたとき、創を笑う声は一つも残っていなかった。