不死王妃は玉座を離れない
反乱軍が王城へ入ったとき、王妃フェリクサは玉座から動かなかった。
王は逃げた。大臣も宝物庫の裏道へ消えた。謁見の間に残ったのは、年を取らないと噂される王妃と、足を挫いた十二歳の小姓だけだった。
反乱軍長ザグメルは玉座の前で剣を掲げた。
「三代の王を操った魔女め。民の恨みを城ごと受けろ」
彼の合図で、工兵が外壁の魔力杭を抜いた。謁見の間に面した城壁が裂け、塔の半分が玉座へ崩れ落ちる。
フェリクサは小姓の頭へ片手を置き、脚を組んだまま目を閉じた。
石と梁が二人を呑み、王城が揺れた。反乱兵は歓声を上げたが、ザグメルだけは剣を下ろさなかった。
瓦礫の中から、規則正しい音が聞こえた。
王妃が指先で玉座の肘掛けを叩く音だ。謁見の退屈を紛らわせる、昔からの癖だと古参兵が囁いた。
土煙が晴れる。
フェリクサは同じ姿勢で座っていた。右脚を上に組み、左手を小姓の頭へ。玉座の周囲だけ床が残り、巨石は薄い板のように縦へ割れている。
反乱兵の一人が、壁から落ちた歴代王の肖像を拾った。曽祖父の戴冠画にも、その母の婚礼画にも、今と同じ顔のフェリクサが描かれている。老いないという噂を宣伝だと思っていた若者たちは、剣先を下げた。ザグメルだけが、後戻りできないほど大声で魔女と呼んでしまっていた。
「王城の結界だ」
ザグメルは叫んだ。
王妃は静かに首を振る。
「その結界を切ったから、壁が落ちたのでしょう」
正しい。自分で命じたことだった。
ザグメルは王家の処刑剣を抜いた。反乱の象徴として奪った宝剣であり、王族の加護だけを断つ性質を持つ。
「ならば、これで終わりだ」
彼は階段を駆け上がり、王妃の首へ振り下ろした。金色の衝撃が玉座を包み、天井の残骸まで吹き飛ばす。
煙の中で、指先の音は止まらなかった。
晴れた視界の先で、フェリクサは脚を組んだまま彼を見ている。剣は首筋に触れているのに、皮膚へ沈まない。
「私は三代を操ってはいません」
王妃は小姓をかばったまま微笑んだ。
「六代を見送りました」
ザグメルは、生まれて初めて敵の前で一歩退いた。