乾燥機は眠らない
午前四時、駅前のコインランドリーから「乾燥機が焦げ臭い」と連絡が来た。鳴海初音が着くと、店主は停止した六号機の前で、新しいサーマルヒューズを握っていた。
「これが切れただけです。替えれば朝の客に間に合います」
初音は扉を開け、ドラムを手で回した。回転はするが、半周ごとにかすかな擦れ音がある。背面を外すと、ベルトを張るテンションプーリーが茶色く変色し、軸が熱で固まりかけていた。
店主はプーリーも替えると言った。初音は焦げ臭さの流れる方向を確かめ、排気ダクトの点検口を開けた。奥から、濡れた毛布のような綿埃が塊で落ちてきた。空気が抜けず、機械内部の温度が上がり、プーリーの油を焼き、最後にサーマルヒューズが切れたのだ。
「ヒューズは壊れたんじゃありません。火事になる前に止めました」
店主は黙って、手の中の部品を置いた。
初音は店の六台を全部停止させた。六号機だけ直しても、共通の排気管が詰まっていれば他の機械が同じ熱を受ける。朝の売上を気にする店主には、清掃で一時間閉めることと、火災で何日も閉めることの違いだけを説明した。
埃の塊からは、洗濯ネットの留め具や紙片まで出てきた。初音は店主に、家庭用掃除機を点検口へ入れる従来の方法では奥の曲がりまで届かないと見せた。月一回だった清掃を、風量の記録が一定値を下回った時点で行う手順へ変える。故障日ではなく、詰まり始めた日を捕まえるためだった。
ダクトを分割して吸い出し、焼けたテンションプーリーと切れたサーマルヒューズを交換した。試運転では乾いたタオルを三枚入れ、排気口の風量を測る。以前の記録の倍まで戻った。
午前六時、シャッターを半分開けると、始発帰りの若者が洗濯袋を抱えて入ってきた。店主は六号機に「点検済み」の札を貼り、初音へ缶コーヒーを差し出した。
そのとき三号機の客が、「硬貨を入れても戻ってくる」と呼んだ。初音はまだ温かい六号機の背板を閉じ、缶を開けないまま次の工具を出した。