予約人数は五名
祖母の米寿を祝うため、家族四人は古い洋食店を予約した。
端末へ人数を入力すると、画面に、
「ご家族五名」
と表示された。
何度四名に直しても、五名へ戻る。
店員は困り、
「この端末は、家族の集まりで忘れられた人を一名追加することがあります」
と説明した。
家族は笑った。
そんな人はいない。
席へ案内されると、五脚目の椅子に水だけが置かれた。
祖母はその椅子を見て、急に落ち着かなくなった。
「ここ、誰か座るんじゃなかった?」
娘も、壁際の席を避ける癖が自分にあることへ気づいた。
いつも誰かがそこへ座っていた気がする。
料理が運ばれた。
五皿。
余分な一皿は、誰も頼んでいないクリームコロッケだった。
祖母が涙をこぼした。
「この子、これしか食べなかった」
誰のことかは、まだ思い出せない。
家へ戻り、古いアルバムを探した。
写真の端に、不自然な切れ目が何枚もある。
誕生日ケーキには、四人分と思っていた名前の間へ、削られた蝋の跡があった。
押し入れから、五人兄弟と書かれた学校書類が出てきた。
家族は一人ずつ記憶を取り戻した。
祖母の長女。
家を出て、父親と激しく争い、その後誰も名前を言わなくなった。
いつから本当に忘れたのか分からない。
「最初からいなかった」と繰り返すうち、写真からも心からも消えた。
住所を探すと、隣の県の介護施設に同じ生年月日の女性がいた。
家族は会いに行った。
女性は祖母を見るなり、
「今さら」
と言った。
覚えていたのは、忘れられた側だけだった。
祖母は謝罪の言葉を探したが、女性は止めた。
「まず、ご飯にしよう。謝ると長いから」
近くの食堂で五人は座った。
女性はクリームコロッケを注文し、一口食べて、
「昔より小さい」
と文句を言った。
家族は笑ってよいか分からず、やがて祖母が笑った。
次の年、同じ洋食店を予約した。
端末へ五名と入力する。
今度はそのまま通った。
五人目の椅子は空席ではない。
そこへ座る人が家族を許したわけでも、昔へ戻ったわけでもない。
それでも名前を消さず、好物を一皿数えることから、遅い家族の時間が始まった。