二つの温度
鍛冶の町ベルガには、人間と岩小人が半分ずつ住んでいた。
共同浴場の話が出るたびに喧嘩になった。人間は四十度で熱いと言い、岩小人は五十度でなければ水だと言う。一つの浴槽を造れば、どちらかが我慢する。だから十年間、誰も造らなかった。
町長トーヴァは、古い醸造所の床に白線を一本引いた。
「炉は一つ、浴槽は二つにします」
高温槽へ先に湯を通し、溢れた湯へ井戸水を混ぜて温槽へ送る。燃料は二倍にならない。問題は、誰が多く払うかだった。
トーヴァは種族別の税を拒んだ。
「高温槽を使った延べ時間と、温槽を使った延べ時間を毎日砂時計で測る。追加の薪が必要だった月だけ、その割合で翌月の利用料を分けます。使わない者は払わない。子どもはどちらも無料です」
岩小人の親方が疑った。
「砂時計を誰が見る?」
「週ごとに人間と岩小人が交代。記録は二人の署名がそろわなければ無効です」
仕組みが決まると、争いは建築競争に変わった。岩小人は熱に強い炉壁を積み、人間の配管工は冷水弁を工夫した。互いに相手の浴槽へ入る必要はない。それでも、自分の技術がなければ相手の湯も沸かないと分かった。
試運転の日、高温槽の薪使用量は予想より少なかった。余熱が温槽を十分に満たしたからだ。トーヴァは黒板に、両方の利用料を同額と書いた。
誰からともなく拍手が起きる。
入口には二枚の暖簾が下がった。赤には「石もほどける熱い湯」、青には「長話のできる温い湯」。その中央には、もっと小さな札がある。
――炉と会計は、ひとつ。
初日の入浴後、人間の配管工は熱い湯へ指一本だけ浸し、岩小人の親方は温い湯で長話を試した。どちらもすぐ自分の槽へ戻ったが、相手が何を好むかは笑って理解した。砂時計の当番表には両種族の名が交互に並び、最初の記録へ二つの署名が重なった。料金を決める数字は、誰かの感覚ではなく、皆が見た時間から生まれるようになった。
二色の湯気が梁の上で混ざり、区別のつかない一筋になって天窓から昇っていった。