二十二度の英雄

ハシュクが竜の心臓を握り潰すと、指先に霜が咲いた。

崩れた礼拝堂の地下では、避難していた子どもたちが息を潜めている。竜の巨体が祭壇を塞ぎ、最後の炎を吐こうと喉を光らせた。

「もう勝たないで」

ペリナが背後から叫んだ。

遅かった。ハシュクは竜の顎へ手を差し込み、体内の熱を奪った。炎は白い息へ変わり、巨体が氷の柱になって砕ける。

勝利の刻印が左胸に増えた。

彼の術は、敵に勝つたび体温を一度下げる。その冷たさのぶんだけ、次の敵から熱を奪う力が強くなる。三十六度だったころ、彼は笑い上戸だった。三十二度で冗談が分からなくなり、二十八度で子どもの泣き声を騒音と感じた。二十四度になった昨日、死んだ仲間の身体を盾として使うことに何のためらいもなかった。

そして今、二十二度。

ペリナが駆け寄り、彼の頬を叩いた。掌の皮膚が貼りつき、薄く剥がれる。

「冷たい」

「正常な反応だ」

「そうじゃない」

竜の腹の下から小さな呻きがした。石に挟まれた少年がいる。ハシュクは瓦礫を持ち上げたが、少年の脚は潰れていた。

「切断すれば生存率が上がる」

剣を抜く彼の腕を、ペリナが掴む。

「まず怖がってるって分かってあげて」

ハシュクは少年の顔を見た。涙、震え、助けを求める目。それらを症状としては認識できる。だが胸の内には何も起こらない。

「恐怖は処置の妨げになる」

彼は自分の外套を裂き、少年の口へ噛ませた。迷いなく脚を切り、傷口を凍らせる。少年は助かった。

皆が英雄を讃えた。

夜明け、礼拝堂を出ると雪が降っていた。ペリナが毛布を肩へ掛ける。ハシュクの肌は青白く透け、血管の代わりに細い氷の筋が走っている。

「寒くないの」

「寒さとは、熱を失う苦痛だろう。苦痛はない」

彼女は泣いた。

ハシュクはその頬へ触れ、涙を凍らせて採った。透明な粒を光に透かす。

「なぜ体液を流す」

ペリナは答えられなかった。

彼の胸には二十二度と刻まれていたが、その数字の下で心臓は一度も動いていなかった。