二度目の改札
冬花は、碧人からの《着いた》を二十二分待っていた。
駅前で会う約束は、半年前の告白以来だった。碧人が七年付き合った人と別れて一か月後、冬花へ「ずっと好きだった」と言った。別れの相談を聞いていた自分が、空いた席へ滑り込むようで嫌だった。嬉しかったのに、別れた寂しさの代用品にされたくなくて断った。碧人が否定するほど、自分が選ばれたかった欲深さまで見透かされる気がした。その後も連絡は続き、今夜、彼が地方勤務へ発つ前に会うことになった。
終電まで三分。碧人は反対側の改札から走ってきた。
「ごめん、出口を間違えた」
「間に合うよ」
「何に?」
「電車に」
二人の間を、傘を畳んだ帰宅客が流れていく。駅員は閉鎖用の鎖を準備し、電光板から行き先が一つずつ消えていた。改札脇の細い柱と券売機に挟まれ、避けようにも避けられない。
「冬花、半年前の返事、今も同じ?」
「終電、あと二分」
「間に合うよ」
「だから、電車には」
「俺が聞いてるのは電車じゃない」
碧人の手には、以前冬花が貸した文庫本があった。返すためだけなら郵送できたはずだ。ページの間から、半年分の新幹線の半券が覗いている。会いに来たとは聞いていない。冬花の職場近くでコーヒーを飲み、声をかけず帰った日もあったらしい。会わなくなっても、彼は月に一度この街へ来ていたらしい。冬花がすすめた店へ行き、同じ本の続きを買い、それでも連絡はしなかった。答えを急かさないためだったと、半券の日付が語っていた。
「別れた直後だったから、信じられなかった」
「うん」
「今も、私が二番目だったらって思う」
「じゃあ、これから確かめて」
ホームに発車ベルが響いた。碧人は乗る側の階段を見たが、動かなかった。
冬花は三度目の言葉を、ようやく電車以外へ使った。
「間に合うよ。私たちも、まだ」
扉が閉まり、終電が走り去る。冬花はスマートフォンで次の始発を検索し、駅前の二十四時間営業の店を碧人へ共有した。二人とも、改札を通さなかった。