二次会には行かない
高校サッカー部の同窓会は、監督の昔話が三巡したところでお開きになった。脇坂壮馬、鳥越乃々香、有働周だけが駅裏の居酒屋へ移り、四人席の一つを荷物置きにした。
「二次会には行かないって言ってたの、誰だよ」と周が笑う。
「これは反省会」と乃々香が訂正した。
十年前、県大会準決勝で敗れた夜も、三人は部室で反省会をした。主将の壮馬、マネジャーの乃々香、決定機を外した周。あの日から周は、三人で会うたび「次は決める」と冗談を言った。
壮馬が唐揚げを一つ取り、「来月、チェンマイへ行く」と言った。
現地の日本人学校で体育を教えながら、子どものサッカーチームを作る。勤めていた保険会社には辞表を出した。
「逃げるみたいで黙ってた」
「逃げ先でコーチする人、初めて見た」と乃々香。
彼女は地元の整形外科を辞め、商店街に小さなリハビリ室を開くという。高齢者も部活帰りの高校生も診る。壁には、三人が負けた試合の写真を飾るつもりだった。
二人が周を見る。周はビールの泡を箸でつついた。
「俺、サッカーやめる」
社会人リーグから誘いが来ていた。けれど来週から、自動車工場の夜勤班へ移る。子どもの養育費を遅らせないためだった。
壮馬は「もったいない」と言いかけ、飲み込んだ。乃々香も「続け方はある」と言わなかった。十年前なら、諦めるなと肩を叩くことが正しさだった。
「次は決める、は?」と壮馬。
「もう次の試合がないから、外さない」
その言葉だけは冗談に聞こえず、壮馬は唐揚げを皿へ戻した。乃々香は、古傷を診るときのように周の膝を一度だけ見た。
周は笑って乾杯した。三つのグラスは同じ音を立てたが、飲む速さは違った。
店を出ると、壮馬は空港行きの最終バスへ、乃々香は商店街の方へ、周は工場の送迎車が来る東口へ向かった。
翌朝、居酒屋から周に電話があった。座席の下に、古いすね当てが片方落ちていたという。高校時代の背番号が油性ペンで残っていた。
周は取りに戻らなかった。
空いた四脚目の椅子の下で、それは次の試合を待つように、表を上にして置かれていた。