会うだけの土曜日

真白が母からの電話に出ると、前置きなしで年齢を言われた。

「もうすぐ二十九でしょう。知り合いの息子さん、写真だけでも見ない?」

電話を切らせまいとする声と一緒に、二件のメッセージが届いた。一件は紺色のスーツを着た男性のプロフィール。もう一件は友人からの「土曜、陶芸の体験キャンセル出たよ」という誘いだった。

どちらも同じ午後二時だった。

プロフィールを閉じれば、母に押し切られなかった自分でいられる。陶芸を断れば、将来を真面目に考えた自分になれる。そんな単純な二択に見せかけて、真白はどちらにも逃げ道を探していた。

「会うだけでいいのよ」と母は言った。

その言葉が嫌いだった。会えば期待され、断れば理由を求められる。「だけ」で終わることなどない。それでも、写真の男性が紹介文に「休日は一人で古い橋を見に行く」と書いているのを、少し面白いと思ったのも本当だった。

真白は陶芸の申込画面と、面会場所の予約画面を交互に見た。好きなことへ行く未来と、怖いことへ行く未来。どちらを選んでも、もう片方を選ばなかった意味を背負う。

「会う」と母に言ったあと、真白はすぐ続けた。

「ただし、合うかどうかは私が決める。次の約束も、報告するかも私が決める」

母は不満そうに「分かった」と答えた。

真白は友人へ「今回は行けない」と送り、男性との予約を確定した。画面には、前日までキャンセル無料、と表示された。

その一文を指で隠し、真白はカレンダーに予定を入れた。正しい相手を選んだのではない。怖さを母のせいにせず、自分の好奇心として一度だけ引き受けることにした。

土曜の朝、友人からは土色の小鉢の写真、母からは「笑顔でね」というメッセージが届いた。真白は二件とも通知を消し、紺色の服ではなく黄色いシャツを選んだ。待ち合わせの店の前で、引き返す理由を十個思いついた。キャンセル無料の時刻はまだ過ぎていない。それでも扉を開けた。うまくいかなければ、母の見る目が悪かったとは言わない。面白いと思った一行を信じた自分の、半日の失敗として持ち帰るつもりだった。