会議室〈北窓〉の同時接続
昇進審査はオンラインだったが、候補者の一人だけ本社の会議室〈北窓〉から接続していた。
画面にはその候補者のほか、「北窓・予備端末」という無人タイルがあり、審査役は機材の予備だと説明した。
課題は、新物流拠点の収支改善案だった。
候補者は、私が昨月提出した試算と同じ数字を、順番まで変えずに発表した。私が盗用を指摘すると、候補者は逆に言った。
「この案は私が先に作りました。彼が共有フォルダから見たのでしょう」
審査役は私の評価欄へ「協調性に難」と入力した。
私は会議室予約表を画面共有した。
〈北窓〉を予約したのは候補者ではない。三か月前に契約を終えた外部コンサルタントのアカウントだった。退職済みなのに、今日の十一時から十八時まで予約が残っている。
予備端末の詳細を開くと、接続元もそのコンサルタントの会社だった。
候補者は「設備担当が古い予約を使っただけ」と答えた。
そこで版履歴を示した。私の試算表は昨月二十七日、私が初版を保存。今日十三時四分、予備端末の外部アカウントが閲覧し、十三時九分に候補者の発表資料へ貼り付けている。面接開始は十三時半だった。
コンサルタントがミュートを解除した。
「候補者に頼まれ、見栄えを整えただけです」
だがチャットの復元記録には、《北窓なら社内端末に見える。元ファイルを取ってきて》と候補者が送った文面が残っていた。
さらに会議室の入室ログでは、候補者とコンサルタントが同じ時刻に入室している。画面外で隣に座っていたのだ。
私は発表資料の非表示スライドも開いた。そこには私の試算表のセル番地と、《質問されたら原作者が計算ミスしたと言う》というメモがある。更新者は予備端末、保存時刻は面接開始二分前。候補者は盗用だけでなく、私を虚偽の失敗者にする回答まで準備していた。
審査役の一人が、先ほど私に付けた低評価を自分の手で削除した。
審査役は評価表を閉じた。
「盗用した者を昇進させることはできません」
候補者の推薦欄からチェックが消える。
そして、協調性に難と書かれた私の欄を消し、審査役は新しく入力した。
《昇進決定。理由――記録に基づき不正を止めたため》