保険料一銅貨の盾

迷宮保険組合は、カティオの一行だけ保険料を十倍にした。

理由は「盾役の装備が粗末だから」。鉄板一枚を胸へ吊っただけの彼を見て、査定官は事故率が高いと決めつけた。交渉役のデュマリスが抗議すると、査定官は契約書を丸めて机を叩く。

「なら実地査定だ。仲間を一人、試験人形の攻撃から守れ。傷一つで契約拒否」

デュマリスは前月、組合が救助中の負傷を『契約外』として切り捨てていると見抜いた。帳簿を持って理事会へ行った彼を、入口で守ったのがカティオだった。その報復で二人の査定だけが引き上げられたことを、受付係たちは知っている。それでも誰も査定官へ逆らえなかった。

地下試験室へ降りると、そこにいたのは人形ではなく、廃坑制圧用の鋼鉄巨兵だった。査定官は最初から落とすつもりで、通常設定の三倍へ鍵を回した。

デュマリスは試験前、死亡時の免責同意書を差し出された。カティオはそれを受け取り、署名欄ではなく『不当条項』の文字を大きく囲んだ。『守る試験で、守れなかった後の相談を先にするな』。査定官は鼻で笑い、巨兵の出力鍵を回した。

巨兵の拳が振り下ろされる。爆音と煙が室内を満たし、天井から砂が降った。査定官は損害見積もりを書き始め、ペン先を止めた。

衝撃計の「被保険者側損害」が、零のままだった。

機械の故障なら、巨兵側の数値も止まるはずだ。そちらには拳骨の亀裂、肘軸の歪み、床への反動が細かく加算されている。

煙が晴れる。カティオは左手を前へ出した同じ姿勢で立ち、デュマリスは背後で契約書の誤字を直していた。胸の鉄板はへこんでいない。そもそも拳は鉄板へ届かず、カティオの手のひらで止まっていた。

「一度では偶然だ!」

査定官は巨兵の災害設定を解禁した。両肩が開き、迷宮階層を焼き払う熱衝砲がカティオへ収束する。デュマリスは逃げず、修正した契約書を彼の背中へ当てて台にした。

発射後、煙の中でペンが紙を走る音だけが続いた。

カティオは同じ姿勢。契約書にも焦げ跡はない。査定官が震える手で再計測すると、針は上限を越えて回り、盤面から抜け落ちた。

《防御値:測定不能》