偽物のスタッフ腕章
限定ゲーム機発売日の朝、家電量販店の搬入口から、蟹江原隆臣が黄色い腕章を着けて現れた。
「在庫確認です。先に百台、業者車へ積みます」
列整理を担当していた火打石航希は、腕章のロゴが一世代前のものだと気づいた。
「社員証をお願いします」
「本部の応援だ。バイトが口を挟むな」
隆臣は倉庫扉へ向かい、台車を押そうとした。台車は避難通路を塞ぎ、開店準備中の店員が二人、商品棚との間に閉じ込められかけた。航希は客を煽らず、非常口だけ先に確保した。航希は道を塞がず、無線で警備室へ合図した。
本物のスタッフ腕章には、近距離通信タグが埋め込まれている。入退場ゲートで担当者名と配置場所が表示されるが、隆臣の腕章は何も反応しなかった。社員証も、退職した知人の写真を貼り替えたものだった。
「列へ戻るだけだ」
隆臣は腕章を外そうとした。
そのとき、店内モニターに監視映像が映った。前夜、隆臣が系列店の制服写真を印刷し、腕章を自作する様子。本人が配信していた“潜入準備動画”を、視聴者が店へ通報していたのだ。動画には、商品を持ち出す手順まで本人の声で説明されていた。
さらに彼は、百台確保済みとして転売サイトで前金を受け取っていた。実物を一台も持たないまま、購入者へ“正規店スタッフルート”と説明している。
店長が販売拒否と施設への立入禁止を告げた。
隆臣は航希へ詰め寄る。
「ただのコスプレだ。盗んでない」
警備責任者は、従業員を装って管理区域へ入り、商品を持ち出そうとした経緯を警察へ説明すると答えた。腕章、偽社員証、配信データはその場で保全された。
通販サイトからは出品停止と返金処理の通知。前金口座も調査のため凍結された。
開店時刻になり、航希は正規列の先頭へ一台目を渡した。
隆臣の偽物の腕章が証拠袋へ入り、航希の本物の腕章へ〈在庫管理責任者補佐〉の表示が追加された瞬間、スタッフを装った転売屋は客として並ぶ権利まで失い、止めたアルバイトだけが売場を任される側へ上がった。