傘一本ぶんの安全地帯
《鉄壁ダイゴの横に初心者マークって事故るぞ》
《小柄な子にタンク役させる企画、笑えない》
《天穿巨人の光槍は盾貫通。ダイゴでも三秒が限界》
百層広場に立つ天穿巨人が、雲へ届く槍を掲げた。人気タンク配信者・鉄壁ダイゴは大盾を構え、その背後へ共同攻略者を庇う。
柊木ゆずりは、学校帰りのような黄色い傘を握っていた。登録者はまだ四十六人。けれど彼女の検証配信を見つけたダイゴだけは、その傘が一度も破れず、代わりに雨粒のほうが避けて落ちることを知っていた。
「お嬢ちゃん、俺が受ける。合図したら出口へ走れ」
「ダイゴさんこそ、傘の中から出ないでください」
巨人の槍先に白光が集まる。床の退避表示はすべて消えた。
《光槍は遮蔽物を透過、範囲はフロア全域》
《防御値じゃなく存在座標を貫く攻撃》
《黄色い傘で何を防ぐんだよ》
ゆずりはダイゴの大盾を押し下げた。彼の配信を見て育った彼女は、ダイゴが誰かを庇うときだけ左足を半歩引く癖を知っている。その足まで黄色い円へ収まるよう、傘の位置を慎重に決める。巨人の光が落ちる寸前、彼女は傘を一度だけ開いた。
ぱちん、と軽い音がする。
白光が広場を埋めた。石床も柱も透けるほどの奔流の中で、傘が落とす小さな丸い影だけが残る。二人はその影の内側で無傷だった。
ダイゴはすぐに踏み込み、光槍を撃ち終えた巨人の足首へ盾を叩きつける。巨体が傾き、頭が傘の縁へ触れた瞬間、その頭部だけが光の外側へ弾き出されて消えた。
「防いだんじゃないのか?」
「この傘の下は《雨宿り》です。雨がやむまで、世界の出来事に参加しません」
《座標ログ、傘の影だけ一時的にフロア外判定》
《ダイゴが巨人を影へ押し込んで、頭部だけイベント除外したのか》
《守られる初心者じゃない。鉄壁を守れる唯一のタンクだ》
ダイゴは自分の大盾をゆずりの背へ括りつけ、黄色い傘を代わりに肩へ載せた。
「次の攻略では、俺がお嬢ちゃんの盾を持つ」
配信終了直前、公式ランキングに新しい欄が生まれた。
【特殊防御記録・測定不能――柊木ゆずり/共同検証者 鉄壁ダイゴ】