六番室は東を向く

翻訳会社の代表、海松は、共同オフィスの個室「六番」からオンライン契約会議へ出た。開始十分後、画面外で物が倒れる音がして応答が消えた。管理人が六番を開けると、海松は背後から殴られていた。扉は閉めれば自動施錠。六番前を映す廊下カメラには、会議の前後二十分、誰も近づいていない。

容疑者は施設責任者の百合草、翻訳主任の温品、契約先の蓑島。三人とも別室から会議に参加し、海松が契約不正を告発すれば困る。百合草は「七番側は改装資材でカメラが隠れているが、事件は六番で起きた」と断言した。

共同オフィスの個室は、短期利用者が迷わないよう同じ家具と同じ照明で統一されていた。温品は海松が六番へ入るのを受付画面で確認したと言い、蓑島は契約書の不備だけを認めた。百合草は施設図を広げ、監視範囲の完全さを強調した。番号が正しいという前提に立てば、その説明には隙がなかった。

私は室内を歩かず、画面と天井だけを見た。手掛かりは三つだった。

第一に、海松の窓に映った赤い電波塔は建物の東側にあり、それが正面に見えるのは七番だけだった。

第二に、室内のスプリンクラー点検札には小さく「P7」と印字されていた。

第三に、廊下の数字板は磁石式で、六と七の板の裏に百合草の作業手袋と同じ青い塗料が付着していた。

温品は扉の数字を見比べた。二室は同じ机、同じ壁紙、同じ仮想背景を備え、利用者は番号でしか区別していなかった。

「海松が入ったのは、六番の札を付けられた本当の七番です」私は説明した。百合草は二枚の数字板を交換し、監視されている六番を空室にした。海松は表示を信じて七番へ入り、百合草はカメラの死角から侵入して殺し、扉を閉めた。東の塔と点検札が室内の実番号を示し、塗料が番号交換を百合草へ結ぶ。死体も部屋も動いていない。動かされたのは、密室を指す一枚の数字だけだった。 見張られた六番は安全だったが、海松はそこにいなかった。 数字を信じた目だけが、別の扉を守り続けたのである。