内定料を払う会社
就職紹介会社《ネクストゲート》は、「大手企業への内定確約」を掲げていた。
代表の諸星嵩は、求職者へ五十万円の研修費を払わせる。
「採用先は決まっています。落ちる可能性はありません」
実際には提携企業など一社もない。求職者には架空の面接日程を送り、当日になると「企業都合で延期」と通知する。生活費まで振り込んだ学生が返金を求めても、諸星は研修を欠席した違約金だと言って一円も返さなかった。研修担当の榛名千景が返金を提案すると、諸星はオンライン説明会の最中に彼女を名指しした。
「榛名は契約を理解できない無能です。質問は全部、私にしてください」
説明会終了後も配信が切れていないことに気づかず、彼は笑った。
「来月には会社を畳む。返金請求は榛名に背負わせろ。経理印もこいつの机へ入れておけ」
視聴者欄には、配信終了後も三百人以上が残っていた。チャットには《聞こえています》という書き込みが次々と流れたが、諸星は背を向けて気づかない。千景は誰にも合図せず、黙って画面を閉じ、諸星が作った契約書を印刷した。表には《内定確約・不採用時全額返金》、裏には《採用先企業の不存在を了承する》という矛盾した条項がある。諸星は、責任逃れになると信じて全ページへ電子署名していた。
一週間後、労働局の立入調査が入った。諸星は、千景が勝手に誇大広告を作り、売上を持ち逃げしたと説明する。
調査官は説明会の自動字幕ログを表示した。配信サービスは終了後も五分間、運営者の音声を保存する。諸星の発言は、時刻つきで全文残っていた。
彼は合成音声だと叫んだ。
千景が提出した契約書には、署名時の端末証明と顔認証記録が添付されている。さらに申込金の振込先は、会社口座ではなく諸星個人の海外口座だった。
「裏の条項があるから違法ではない!」
諸星が自分で契約の存在を認めると、調査官は静かに録音を止めた。同行していた刑事が令状を広げる。
「諸星嵩。職業安定法違反および詐欺容疑で逮捕します」