再起動までの十七分
葛城晴矢が比良坂惟人の部屋へ持ち込んだデスクトップは、電源を入れるたび三秒で落ちた。
「捨てろ。八年前の筐体だ」
「これしかない」
二人はかつて同じeスポーツチームにいた。晴矢は指揮役、惟人は狙撃手。大会前日に作戦データが流出し、ログイン記録が惟人の端末を示した。晴矢は説明を聞かず、彼を外した。後になって共有アカウントの欠陥が分かったが、謝罪文は下書きのまま送れなかった。
今、惟人は夜勤を辞め、在宅の仕事を始めるところだった。住んでいた寮も同時に失い、荷物はこの古い機械とリュック一つ。晴矢の部屋には使っていない納戸があった。
二人は床へ新聞紙を敷き、筐体を開いた。埃が灰色のフェルトのように詰まっている。晴矢がファンを外し、惟人が綿棒で端子を拭く。昔と同じで、晴矢は手順を声に出し、惟人は先回りした。
「電源、次」
「もう抜いた」
「メモリ」
「差し直した」
口調だけなら、解散前の練習室だった。違うのは、互いの画面を覗くことに一瞬ためらうことだった。
原因は乾ききった冷却材だった。晴矢が新品を薄く塗り、惟人がヒートシンクを固定する。起動ボタンを押すと、三秒、五秒、十秒と画面が消えない。十七秒で古いログイン画面が出た。
ユーザー名は、二人の昔のハンドルネームを繋いだものだった。惟人が鼻で笑う。
「消してなかったのか」
「管理者権限が面倒だった」
それ以上は言わない。流出の夜についても、謝らなかった年月についても、画面は何も解決してくれない。
晴矢は納戸まで長いLANケーブルを這わせた。惟人が「居候に有線は贅沢だ」と言うと、晴矢は壁へケーブル留めを打った。
「無線は切れる。仕事で困る」
机の横には、すでに二口の電源タップと、空のマグカップが置かれていた。晴矢はルーターのパスワードを書いた紙を渡し、その裏へ玄関の暗証番号も書き足した。
惟人は古いユーザー名を消さず、自分の新しい仕事用アカウントを追加した。再起動後、ログイン画面には二つの名前が縦に並んだ。