出席者ゼロの会議
十三階会議室は、出席者をゼロ人に設定したときだけ予約できる。
予約者は開始時刻に十二階の廊下へ行き、現れる扉を開ける。ただし中へ入ってはいけない。議題を一行だけ書いた紙を、無人の円卓へ滑らせ、十三分待つ。終了後、紙の裏に決定事項が印字される。決定は必ず実行し、議事録は十三文字で保存する。
羽坂は人員整理の担当になった。
彼の部署は、採算だけ見れば真っ先に消える。六人の部下はよく働いたが、会社が必要としているのは仕事ではなく、削減した人数だった。上司は「君の手で三人選べ」と言い、会議室予約の権限を渡した。
十三階会議室なら、誰も選ばずに済むかもしれない。そう考えること自体、規程違反ではなかった。
羽坂は予約画面の出席者欄をゼロにし、議題を入力した。
《顧客支援課を存続させる方法》
開始時刻、十二階の壁に木の扉が現れた。中には十三脚の椅子があり、すべて羽坂のほうへ背を向けていた。彼は印刷した議題を床へ滑らせる。紙は円卓の手前で止まった。
誰もいないはずなのに、椅子が一脚ずつ引かれた。
十三分後、紙が戻ってきた。裏面には短く印字されていた。
《課を存続する。課長という職位を廃止する》
羽坂はもう一度扉を開けようとした。規則では、決定後の再入室申請は禁止されている。取っ手は柔らかく、握るたびに人の手の形へへこんだ。
翌朝、部下六人へ存続通知が届いた。組織図からは課長の箱だけが消え、六本の線が誰にもつながらないまま上へ伸びていた。羽坂の社員アカウントは使えたが、送信者名が空欄になった。廊下で挨拶しても、皆は声のした方向へ会釈するだけだった。
人事に問い合わせると、「役職のない者は在籍確認できません」と丁寧に答えられた。
羽坂は規則どおり議事録を保存した。
《六人の席を残して一人を消す》
ちょうど十三文字だった。
夕方、彼は自分の椅子を十三階会議室の前へ運び、背広を掛けた。翌朝、椅子だけが部署へ戻っていた。
背広の胸には社員証が留められていた。写真の中で、羽坂の顔だけが椅子と同じ木目になり、年輪が一つずつ増えていた。