切られた結縄
高地の風は刃物のように乾いていた。記録将ワマン・キリは、膝の上へ結縄を広げた。
黄は王軍、茶は荷駄、黒は死者。赤い一本だけが、太陽王サイリ・アトクの命令を示す。
「峠門へ伝えろ」と王は言った。「聖獣の隊列が戻る。日没後でも門を開けよ」
敵軍が都へ迫るなか、なぜ聖獣が戻るのか。理由を問う者はいなかった。王は神殿の金と食糧を、白い獣の背に載せて逃がすつもりだった。都が落ちても、財宝さえあれば別の谷で王を名乗れる。
荷を守るため、峠門の守兵には最後まで戦わせる。妻子が都に残っていてもだ。
ワマンは結縄を見つめた。赤い綱には、門を開ける時刻と隊列の数が結ばれている。三つの大結びが三百頭。その下の小結びは、王族十二人を意味した。
だが今夜、峠へ来るのは聖獣ではない。敵将マユタの歩兵三百と、王に捕らわれていた谷の民だ。
昨日、ワマンは牢の石窓からマユタの妹を逃がした。代わりに敵は、都の神殿と水路を焼かないと約束した。書面はない。山の国では紙より結び目が重い。
「数が違えば、門番は気づく」
王が不意に言った。
ワマンは顔を上げた。
「何がでございます」
「おまえの指が、さきほどから黒い綱を隠している」
王は老いても鋭かった。脇に立つ槍兵が穂先を下げる。
黒い綱には、今朝処刑された者の数がある。七十四。その中に、ワマンの兄と甥の結び目もあった。敵へ内通した罪ではない。王の逃亡用の駱馬――この国ではそう呼ぶ毛長獣――が足りず、徴発を拒んだからだ。
「見せろ」
ワマンは黒い綱を差し出した。王は死者を数え、鼻で笑った。
「七十四ではない。見せしめなら百にせよ」
「承知しました」
ワマンは腰の黒曜刃を抜いた。
槍兵が身構える。だが彼が切ったのは王の喉ではなく、赤い綱の小結びだった。王族十二人を示す結び目が、石床へ転がる。
「何をした」
「門番には、王族なしと伝わります。つまり荷を守る必要もない」
王の顔から血の気が引いた。
ワマンは残った赤縄を窓外へ掲げた。対岸の見張り台で、味方のふりをした門番がそれを見る。
夕日の最後の光の中、峠門の上に赤い開門旗が上がった。