利益九百枚、現金四十枚

絹商会の帳簿には、金貨九百枚の利益があった。

それなのに給金日の朝、金庫には四十枚しかない。職人百人への給金は三百枚。会頭は会計係を詐欺師と罵り、衛兵を呼ばせた。

綸子は前世で資金繰り表を作っていた。利益の帳簿を閉じ、日付を書いた紙を床へ並べる。

職人たちは商会の玄関に並び、給金袋が出てこないのを黙って待っていた。家ではパン代を待つ子どもがいる。一方、会頭の執務室には「過去最高益」と金泥で書かれた額縁が飾られていた。綸子には、その九百という文字が乾いた井戸の看板に見えた。

彼女が日付札を床へ並べると、職人たちも窓越しに数え始めた。六十日後の九百枚は大きい。だが今日の三百枚の穴を埋めない。会頭が売上の札を利益側へ重ねるたび、綸子は現金の列へ何も置かなかった。その空白が、どんな叱責より雄弁だった。使者が着手金の袋を置いた瞬間、初めて未来の利益が今日の硬貨へ変わった。

今日、現金四十。今日、給金マイナス三百。十日後、染料代マイナス百二十。六十日後、王侯への売掛金プラス九百。

利益はある。だが銀貨が来るのは二か月先だった。

「この大口注文も受けろ」

会頭は、さらに九百枚の売上になる王子の注文書を振った。支払いは納品から九十日後。綸子の表では、受けた瞬間に染料代二百枚が先に出て、商会は明日止まる。

彼女は注文書の支払欄へ一本線を引き、「着手金四割」と書き換えた。

会頭は王家にそんな条件を出せるかと青ざめた。だが王子の使者は、他店なら納期が三月遅いと知っている。表を見て、金貨三百六十枚の袋を机へ置いた。

「これで予定どおり織れるなら、今払う」

綸子は袋を三つに分けた。給金三百、明日までの支払い五十、予備十。職人たちの前で、全員分の硬貨が揃った。

衛兵は会計係の縄を解いた。会頭は九百枚の利益欄ではなく、今日の残高五十枚を見つめる。

「商会を生かしたのは、儲けではなく日付か」

綸子の表へ商会印を押した。

「今日から資金管理はお前に任せる。会計長として残ってくれ」