割り勘のやさしさ

果林は、お金に細かいのではなく、私を守ってくれている。

社会人一年目、カードの支払いに困った私へ十万円を貸してくれた。それ以来、食事も旅行も彼女がまとめて払い、あとで共有アプリへ入力する。私が端数を切り上げて返そうとすると、「計算が狂うから」と必ず一円単位で戻された。

アプリの残高は、なぜか一度もゼロにならない。

返済した翌日には、〈予約手数料〉〈キャンセル補償〉が追加される。覚えていない項目を尋ねると、果林は私の過去の失敗を順に挙げた。急に体調を崩した温泉旅行、寝坊した映画、プレゼントを買い忘れた誕生日。迷惑を金額に直してくれているのだと思えば、反論できなかった。

もう一つ、彼女は私が誰かへ奢られるのを嫌がった。

「借りが増えるよ。寧々は断れないから」

合コンで男性が会計を持つと言ったときも、果林は私の分だけ受け取り、自分の口座から払ったことにした。あとでアプリへ〈対人リスク回避費・六千円〉と記録された。

私は浪費家で、彼女は堅実。そう信じていた。だから昇給して残額の二十七万円を一括で振り込んだ日、解放されるより先に寂しくなった。

果林から電話が来た。

「急に返されると困る」

「どうして?」

「今月、寧々の分を見込んでたから」

言い間違いだと思った。貸した側が返済を見込むなら分かる。けれど彼女は、私から毎月入る金額で家賃を払っていた。元の十万円を除けば、私が二年間に送った額は九十四万円。共有した旅行も食事も、果林の分まで私へ計上されていた。

明細を突き合わせると、彼女は泣いた。

「私が管理しなかったら、寧々は破産してたよ」

私は謝りかけた。彼女を疑ったことに罪悪感が湧いたからだ。

その夜、アプリの運営へ問い合わせ、履歴の訂正を申請した。返信には、果林が項目名を何度も変更していた記録が添付されていた。〈生活指導〉は以前、〈親友税〉という名前だった。

翌朝、残高はまた三千円増えていた。

項目は〈信頼を裏切った慰謝料〉、支払期限は私の給料日だった。